• 福山ぶらり歴史紀行

花咲堂

広島県福山市熊野町

幽玄の闇にとけるのは、流れゆく時の音か。

里山の夕闇にゆらぐろうそくの炎。聴こえるのは、田を渡る風の音と虫の声……。静寂に心寄せると、やがて滔々たる大河のごとく、この地を行き過ぎた何百という人々の息づかいが聴こえてくるようだ。
お盆行事に辻堂で行われる献灯習俗。今はもう唯一、流麗な姿で里山にたたずむこの「花咲堂」でのみ見られる光景である。
幾星霜、繰り返された日々の暮らし、代々受け継がれてきた慣習。それは新しい生活しか知らぬ者には、決して手にすることができない歴史の深みであり、先人から継承された遺産である。

8月の盆行事として行われる献灯。ご先祖様に捧げるものであるが、山あいの夜に浮かぶあかりはあまりに幻想的だ。

バスの終着点として道路幅を広げたため、堂の位置は以前より移動している。しかし、そのバスもすでに廃線となってしまった。中世の頃はこの先から鞆へと抜ける交通の要衝地でもあった。

献灯の期間は、堂中央に燈籠が吊るされる。

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