• 福山ぶらり歴史紀行

阿伏兎観音(磐台寺観音堂)

広島県福山市沼隈町

江戸時代の名所を独り占めする至福。

深呼吸すると潮の香りが体に満たされてゆく。目の前にあるのは、空と海が融けあったどこまでも広がる青の風景。目を閉じ、波の音を聞く。ただ聞く。自身も風景に溶け込んでいくかのように、心は解き放たれる。
広重が浮世絵に描き、朝鮮通信使が文献に残し、「膝栗毛」では弥次さん北さんが訪れた場所。多くの古人(いにしえびと)が愛した風光明媚な阿伏兎観音は、船に乗り海上から見るしかないが、崖上の本堂廻縁から眺める景色は、それ以上の魅力があるだろう。

廻縁に座して、じっと波の音を聞く。
人それぞれ、至福のひとときが味わえることだろう。

現代は、安産・子育ての観音として広く信仰を集めており、内部には乳房型の絵馬が多数奉納されている。
天井には藤井松林などにより極彩色の絵が描かれている

廻縁にはかなりの傾斜がついているので、注意が必要だ。

回廊は市の重文。棟札に「再興寛文七(1667)」とあり、瓦・柱・梁・石段など当時の用材である。

文と写真 秋山 由実

PAGE TOP