広島県福山市田尻町

勝成の風呂跡

勝成が身体を癒した風景は年経て、心を癒す風景と成る。

潮風が頬をなでる。ここが海辺の集落であることを思い知る。
水野勝成が大転輪丸で高島の御船入から旅立つ時、田尻村の若者は「はねおどり」で旅の無事を祈り見送ったという。勝成にとって、田尻は親しみのある地であったろう。
晩年、疝(せん)を患っていた勝成は、ここに石風呂を作り治療したと言われている。石を焼き温めて海水を注ぎ、その湯気に体を当て汗を流す蒸気浴だ。
戦乱の世を勝ち抜いてきた男は、老齢となり自身の痛みと戦わねばならなかった。ひとときの安息を、この地で得たのだろうか。初夏の陽射しに潮風が一服の涼を運んでくる。

干潮時、入江に下りて、風呂が鼻の方へと歩く。
濃い潮の香りの風景が目の前に開けてくる。

岩場を進むと、崖の窪みを利用したような風呂跡がある。
風呂跡から海を臨むと思わず深呼吸したくなる。

対岸から望む風呂ケ鼻。干潮時でないと近寄ることができない。
写真左側に風呂跡がある。

風呂跡のある風呂ケ鼻の崖上には風呂神社が祀られている。
崖の先端の平地は勝成寓居跡とも伝わる。眼前には鞆の風景が広がっている。

文と写真 秋山 由実