三好教育長に聞く 福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第18回

学びの保障

 新型コロナウイルスの感染拡大による臨時休業が続いた影響で、今年度は夏休みが短縮されました。市内各学校では、8月24日から二学期がスタートしています。

 「学校の新しい生活様式」を踏まえた各学校の取組について、三好教育長からお話を伺います。

—長い臨時休業期間があったので、夏休みがとても短かったですね。

教育長:そうですね。毎年40日ほどあった夏休みが、今年度は23日でした。短くなった中でも自主学習ができるよう、教室、パソコン教室、図書室などを開放したり、学習相談日や質問教室を設けて、教科ごとに質問できるようにしたりするなど、子どもたちの状況に応じて、自主登校日や登校日を設定した学校もあります。

 本市ではエアコンの全校整備にともない、今年度から夏休みを8月1カ月としていました。7月末まで授業を行うことで、年間を通して1日5時間授業にすると、子どもたちがゆとりを持って学ぶことができると考えたからです。また、教職員も放課後に授業準備や会議を行ったり、勤務時間内に部活動を指導したりすることができるようになります。このことを踏まえて各学校では、昨年度から年間の教育計画を見直していました。

 こうした中、新型コロナウイルス感染拡大にともなう臨時休業、1週間程度の夏休みの短縮などにより、さらに、学習内容と授業時数の両面から計画を見直しながら日々の教育活動を行い、一学期を終えました。

—具体的にどのようなことを見直されているのですか。

教育長:教科等の学習はもちろんですが、みんなが集う学校だからできる行事や体験も大切にできるように見直しています。

 4月から5月にかけ、全国の多くの学校が臨時休業になりました。また、今後も社会全体が長期間にわたり、新型コロナウイルス感染症とともに生きていかなければならない状況にあると言われています。こうした中で、文部科学省が1時間の授業時間(小学校45分、中学校50分)を5分程度短くして一日の授業数を1時間増やしたり、授業での活動を重点化したりする工夫例を示しました。

 これらも活用しながら、各学校では家庭学習と関連付けた授業を行ったり、掃除やホームルーム等の時間を短縮した時間割を作成したりしてきました。

 市教委からも各学校の参考となるよう、教科や学年をつなぐ年間の教育計画を研究・実施している小学校「学びづくりパイロット校(11校)」の実践例を全校へ情報提供しました。また、学習指導要領に基づき、各教科の学習内容と授業時数を整理したカリキュラムを作成し、示しました。

—各学校でさまざまに工夫されているのですね。ところで、学期終わりに配付される通知表の対応も各学校の状況によってさまざまだったと聞いていますが、いかがですか。

教育長:一学期末に通知表を配付した学校は、小学校15校(75校中)中学校27校(35校中)です。通知表を配付していない学校では、テストの結果をまとめたものや子どもが作成したもの(プリント・ノート・作文・作品等)を使い、懇談で保護者の方と子どもが頑張ってきたことについて対話しています。また、二学期末に一・二学期の学習の状況を併せて通知表を作成し、配付することを計画している学校もあります。

 本市では、一昨年度から小学校「学びづくりパイロット校」を中心に、テストや通知表など、これまでの評価の在り方を見直してきました。昨年度はパイロット校3校で「よくできる・できる・もうすこし」といった3段階の評価から、子どもの学びの状況がわかるもの(テスト・プリント・ノート・作文・作品等)を綴じた「学びファイル」での評価に変えていきました。

 「学びファイル」は、各教科の学習で子どもたちが頑張ってきたことを一冊のファイルに綴じたものです。例えば、

算数(計算・作図テスト)

国語…テスト(漢字・言葉・読解)・ノート・作文等
算数…テスト(計算・作図・文章題)・ノート等
生活…ワークシート(観察記録・探検記録等)
社会…テスト・ノート・調べ学習・新聞作り等
理科…テスト・ノート・実験記録等
音楽…テスト・音楽鑑賞カード等
図工…絵や工作の写真・鑑賞カード
体育…テスト(保健)・振り返りシート

 

社会(ノート・新聞作り)

子どもが取り出しやすい場所に置いている

この他にも、日々の生活や行事の振り返りを書いたシート・自主学習ノート・出欠の記録等も綴じています。「学びファイル」は、教室に置いて、作成したものを子どもたちが日々綴じていけるようにしています。

 今まで当たり前だと思っていた通知表がないということに対して、最初は保護者から「大丈夫なのか」という不安の声がありました。当然ですよね。しかし、学びファイルを使って懇談をしていくと、子どもが書いた作文や制作した作品の写真などを見ることで、子どもが考えたり工夫したりしていることが分かります。懇談を終えた後、保護者からは「子どもができていること、できていないことがよく分かった」「子どもの頑張りや成長が分かり、ほめてあげたいと思う」などの感想がありました。保護者へのアンケートでは「『学びファイル』を活用した説明で理解できた」という回答が昨年度は98%、今年度は99%でした。

—通知表よりも学びファイルでの評価の方がよいということですか。

教育長:通知表も、一つの評価の方法です。「通知表での評価の方が、何を頑張ったらよいかがよく分かる」という声もあります。一方で、例えば、音楽で低い評価がついてしまうと、そこから「自分は音楽ができないんだ」と苦手意識をもってしまう子もいます。そう思い込んだまま大きくなっていく場合もあります。評価は自分を決めつけるものでも、人と比較するためのものでもありません。それぞれの子どもが、さらに伸びていくためにあります。子どもたち一人一人、分かる過程や学び方が異なるように、伸び方もさまざまです。このことへの我々大人の深い理解が必要であると思っています。

 本市では、2018年度(平成30年度)から、2中学校区(城南・鷹取)で実施していた「学力の伸びを把握する調査」を、今年度から市内全小中学校で実施することにしました。この調査は、小学校4年生から中学校3年生・義務教育学校4年生から9年生までの子どもたちを対象として、毎年行うことにより、全ての子どもの1年ごとの学力の伸びや学習に関する意識の変化を知ることができます。また、個々の伸びだけでなく、学級集団の伸びも知ることができ、課題に応じた指導の工夫や、学力を伸ばした指導方法等がわかるような調査となっています。この調査の結果を経年的に比較していくことで、子ども主体の学びづくりの取組を充実させ、子どもたち一人一人の学力を確実に伸ばしていきたいと考えています。

 コロナウイルス感染拡大に係る臨時休業の影響もあって、各学校ではこれまで使っていたドリルなどの教材や単元ごとに行うテストなどの見直しもしています。これを機会に、子どもの学ぶ過程を大事にした評価、子どもが伸びていくための評価がどうできるか、各学校での協議の広がりを期待しています。

—感染症対策も確実に行いながら、日々の授業づくり、学びづくりを行っている先生方の研修は、今まで通り行われているのですか。

教育長:中止や延期した研修もあります。また、実施する際も人数を分散して小グループで集まるなど、感染症対策に気を付けています。リモートで行った研修もあります。

 研修は「学ぶ」ということへの理解を中心に行っています。認知科学の研究でも明らかになってきているように、「人は、外から教えられて知識を身に付けるのではなく、今までもっている知識や経験と結び付けて、新しい知識を取り込んでいく。それが生きた知識、使える知識になる」ということへの理解です。このこと一つの理解が深まると、日々の授業、子どもたちの学びへの見方が変わってくると考えています。

 初任者研修で初任者の先生方と話をすると、どのように子どもたちの学びを見ればよいか、教員の役割は何か、悩んでいる先生が多くいました。そこで伝えたことは「『教えてもらう』という意識を捨ててください」ということです。

 それは、誰からも教えてもらわないということではありません。いろんな人の意見を聴くけれど、最終的に自分で選ぶこと、自分で決めることを大事にしてほしいということです。

 コロナ禍において、選ぶ、決めるということは、これまでと比較できないくらい大変なことかもしれません。しかし「教えてもらう」「指示を待つ」「決めてもらう」というところに、安易に入り込まないでほしいと思っています。試行錯誤しながら、常に探し続ける、子どもと一緒に探し続ける先生であるよう、学校の授業を見て、研修の中で等、さまざまな機会を通じて、全力で応援していきます。

 8月半ばから、校長、教頭、教職員、だれでも、「『学び』について一緒に考えたい、今やろうとしていることを話したいと思ったら、連絡してください、話をしましょう!」というメッセージを出しました。9月中旬までの私のスケジュールを示し、希望があれば、学校から時間・場所などを設定してもらうようにしました。一週間もしない内に、最初に示したスケジュールは全て埋まりました。声を聴かせてもらえることを楽しみにしています。

 行きます、何処へでも。来てください、誰とでも。大歓迎です。こんな感じです。

—全国的に見ても、感染者数が増加傾向にある中で、2学期が始まりました。

教育長:そうですね。まだ暑さも厳しいので、2学期は感染症対策だけでなく、熱中症対策も大切です。子どもや教職員が一緒に「お互いの命を守る新たなルール」を作り、見直しながら、みんなが集まる学校だからできる学びを大切にした教育活動をしっかりと行っていきたいと思っています。

びんまる2020年9月号より