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三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第41回

三好教育長に聞く 福山100NEN教育

個に応じた学び

—福山100NEN教育では、すべての教職員が「学び」への理解を深め、子どもの学びを促す実践力が高まるよう、年間通して教職経験に応じた研修、教職員主体の研修など様々な研修が行われています。今回は、6月末に行われた「個に応じた学びづくり研修」について三好教育長からお話を伺います。

—「個に応じた学びづくり研修」の内容を教えてください。

教育長:この研修は、すべての学級で子ども一人一人の違いや、学ぶ過程が大切にされるよう、一人一人の実態に応じた支援のあり方について理解・実践することを目的としています。校内で、生徒指導や特別支援教育に関わる教員を対象として、年に2回行う研修の今回は1回目です。研修の前半に、一般社団法人UNIVAの理事であり、LITALICO教育ソフトアドバイザーの野口さんから、「インクルーシブな学校づくりのためにできること」というテーマで、お話していただきました。この内容は、福山100NEN教育の中で大切にしてきた考え方・取組と重なりますので、7月の校長研修会でも紹介し、端末上で講話録を全教職員が共有しています。ここでは、その一部を抜粋して紹介します。

「インクルーシブな学校づくりのためにできること」 講師:野口 晃菜 アドバイザー

* 個と環境 *

「個」でいうと、例えば衝動性が高い、不注意、感覚過敏、聴覚過敏、ルーティーンが変わると不安になるという特性をもっている子がいます。緊張しやすい、天真爛漫など、その子の性格みたいなものもあります。
「環境」では、これまでの学習履歴、生育歴など、家庭の中で自身が力をつけてきたものやスキルなどがあります。教材、提示方法、教室環境、声かけの仕方、ICTなどの機器も環境要因です。制度や文化についても、広い意味で環境となります。
これらを踏まえ、どんなアプローチができるのか、個へのアプローチ、環境へのアプローチを考えます。しかし、どうしても個へのアプローチに偏り、その子だけに頑張らせてしまう傾向があります。環境をどう変えたらいいかという視点をもってください。例えば、その子の興味関心を広げられるようなものがいいです。映像を使った授業かもしれません。本人に合った教材教具を活用していくことかもしれません。大事なのは、個へのアプローチだけに偏らず、環境の工夫をできるだけたくさん考えることです。
今の学校は多数派を中心に作られているので、少数派の子がしんどい思いをする場合があります。例えば、読み書きができない子は、ノートと教科書が前提の授業になると、困難になることが予想されます。教室を出てしまうことがあるかもしれません。これは、「個」と「環境」のミスマッチです。また子どもの中には、動いていた方が集中できる子がいます。手遊びをすることで集中を保っているのです。もし、こういう子が多数派のクラスだったら、「集中しなさい」と言って手遊びを制止することは、理不尽な指導となります。この子の困難さの原因はどこにあるのか、「個」と「環境」の両側面から見ていくことが大切です。

* インクルーシブ教育 *

インクルーシブ教育とは、すべての子どもが学校において、平等に大切にされ、所属感をもち、学びや活動に参加できている状態のことです。これは障がいのある子どもだけの話ではありません。すべての子どもたちです。大事なことは、「学校は、いろいろな子どもがいることを前提にしていますか」ということです。もちろんそれは、すごく大変なことです。しかし大切なことは、多様な子どもがいることを前提として、学校教育のあり方や子どもへの接し方など、教育活動一つ一つを変えていこうとするプロセスです。
私はいろんな国を見ましたが、完璧にインクルーシブ教育ができている国はありません。常に時代が変化し、新しいニーズが生まれてくるからです。新しいニーズに対して、アップデートしていく必要があります。アップデートしていくそのプロセスこそが、インクルーシブ教育です。
広島県や福山市がされていることは、すでにインクルーシブ教育だと思います。イエナプラン教育を取り入れられたり、学校内外に不登校の子の居場所をつくったり、非常にインクルーシブな方向性をもたれている自治体だと思います。大事なことは、多様な子どもがいることを前提として、いろいろな環境の選択肢を作っていくことです。その中で、子どもたちが緩やかに協働していくことが大切だと思います。今後も実践をしていただく中で、学習活動そのものを見直す、学校教育のあり方そのものを見直していくことがとても大切です。インクルーシブの視点をもちながら、これは本当に必要か、このあり方で良いのかと見直していくことがとても大切だと思います。

教育長:このように、福山100NEN教育の取組を「インクルーシブ教育」という視点から話をしていただきました。

—今までお話を伺ってきた多様な学びの場の充実に向けた取組とつながりますね。日々実践されている先生方が、このような話を聞くと、今やっていることは何のためなのかということに立ち返れたのではないでしょうか。

教育長:そうですね。一つ一つ目的に立ち返りながら、しっかり考えて取り組んでいくことが大切だと思っています。福山100NEN教育として、特別なことをしているわけではありません。学びを中心において、一人一人みんな違うことを大事にしながら、それぞれが伸びていくために、様々な施策を組み合わせて取組を進めてきています。異年齢集団で教育活動を行うイエナプラン教育校「常石ともに学園」、大きな集団で学ぶことがしんどい子どもを対象とした特認校「広瀬学園」、校内・校外フリースクール(※)、学校図書館など、民間とも連携しながら、子どもたちに多様な学びの場をつくってきました。
子どもにとって学びの場は、学校だけではありません。家庭・地域も、子どもたちにとって豊かな学びの場です。日々の生活の中での会話や体験には、子どもたちが学んでいく基盤となる大事なことがたくさんあります。
これから夏休みが始まります。夏休みは、子どもがぐんぐん成長し、変わっていく時期です。時間をみつけて、子どもの会話を聴き、一緒に活動してみてください。子どもの新たな一面や興味・関心に、きっと気付かれると思います。

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