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三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第52回

就学前と義務教育9年間の学びをつなぐ

 一年前のびんまる第40回では、「幼児期と児童期の学びをつなぐ」と題して、幼保小連携教育の推進に向けた福山市の取組について紹介しました。今月は、その後の取組状況について、三好教育長からお話を伺います。

教育長:ちょうど一年前に「幼保小連携教育キックオフ会議」の内容を紹介しましたね。この会議後に、市内の公立私立の園所・小学校(義務教育学校)合わせて229施設が参加し、小学校を単位とした63の連携校区を編成しました。この体制を整えたことで、校長・施設長・連携担当者が集い、保育・教育について定期的に交流する場ができました。各校区では、保育・授業参観を通して、学力の基盤となる言葉と数を獲得する子どもの姿を共有しながら、学びをつなぐカリキュラムを編成しています。「授業・行事などの交流が充実し、接続を見通したカリキュラムの編成・実施を行っている」と回答した学校は、この一年間で18校から59校に増えています。今年度は、中学校区で取り組んできた小中一貫教育と幼保小連携教育をつなぎ、幼保小中連携へと発展させている校区もあります。
先日、「福山市幼保小連携教育合同研修会」をオンラインで行いました。今回は、私と今井むつみ教授(慶應義塾大学)の講話の一部を紹介します。

*** 15歳の生徒に身に付けておいてもらいたい力に向かって〔三好教育長〕 ***

2020年(令和2年)4月に、広島県教育委員会が入試制度を変えることを示しました。その時に、15歳の生徒に身に付けておいてほしい力を「自己を認識し、自分の人生を選択し、表現することができる力」と示しました。3年間の準備期間を経て、今年3月、初めてこの新しい入試制度に基づいて入学者選抜が行われました。この入試制度が義務教育9年間に求めているものは何なのでしょうか。入試で見る力は、言うまでもなく、直前の対策やトレーニングで付くものではありません。小さい頃から自分で考え、選んだり決めたりすることの積み重ねによって付いていくものです。
生まれてから保育所・幼稚園、小学校(義務教育学校)6年間、中学校(義務教育学校)3年間で学んできたことは、ずっとつながっています。次のグラフは、義務教育9年間で示されている標準授業時数を並べたものです。各学年の総授業時数が異なるので、グラフが表しているものは割合です。学習指導要領で示してある数字情報をグラフにすると、インパクトがあると思って、この資料をつくりました。各教科の配分、量、バランスなどは、どのような考えに基づいて組み立てられているのでしょうか。


小学校では、国語と算数の分量が圧倒的に多いです。特に1・2年生では、総授業時数の半分を占めています。就学前から小学校までは、国語と算数、「言葉」と「数」が中心です。体育・音楽などでも、タイムを測ったり、歌を歌ったりすることを通して、体験的に言葉と数を獲得していきます。中学校からは、各教科が専門的になり、小学校までに身に付けた言葉と数の力が、中学校の教科を学習するベースとなります。しかし、言葉と数の力が不十分だと、専門的な教科が学習できないということではありません。子どもたちは、分数・割合など、生活経験の中で知り得ている言葉や数、感覚をたくさんもっています。子どもたちには、自分の知っていることや経験を使って考えてみたらできた、わかったという経験を積み重ねていってほしいと思います。難しいと思っている教科であっても、自分の経験と結び付くと、教科の面白さに気付き、わかっていきます。
改めて、就学前と義務教育9年間を学びでつないでいく中心に「言葉」と「数」があるということ。今、目の前にいる子ども・教科との関係を見ながら考えていただきたいと思います。

*** 言葉と数への興味と直観的な感覚を育むために〔今井むつみ教授〕 ***

言葉と数は、義務教育において非常に大事な役割を果たす基盤になります。教育長が言われたように、生まれたときから言葉と数の学習は始まっています。生活経験の中で、自分で育んだ言葉と数の知識や感覚が、どれだけ上手く教科の学習につながるか。このことが、学力が付くか付かないか、学びが楽しいか楽しくないかということに大きく影響すると考えられます。
言葉の力と数の感覚は、小学校で教えて覚えるものではなく、小さいときから自分で育んでいくものです。学力の基盤となる大事な力は、言葉の知識、数・量・形などの知識、学んだ内容をすでに持っている自分の知識と関連付けて推論する力です。
幼児期、児童期にしなければならないことは、問題解決の道筋がわかる直観、答えが適切かがわかる直感、そのような直感力を育てていくことです。やはり自分で考えて、自分でわかる。そのような学び方ができる力を育むことが大事です。私たちが行った調査で、小学校で学力が高くなる子どもの家庭は、ひらがなや数を大人が教えていたのではなく、子どもが自分で興味を持って、読んだり書いたり数えたりしていたということがわかっています。結局、どのように子どもに関わればいいかというと、引っ張り上げるよりも、足場かけをすることです。先生にとって、丁寧に整理して教えることは、すごく達成感があって楽しいことです。しかし、人の認知は、教わったことはあまり入ってきません。自分で考えたことが残ります。大事なことは、直接教えるのでなくて、子どもが自分で考えてわかっていくように足場かけすることです。
認知科学でプレイフルラーニング、遊びから学ぶことが注目されています。就学前から遊びの中で、言葉と数への興味や直感的な感覚を育てていく。それが、認知能力、推論能力の向上につながることが、データとして出てきています。教育長が、「中学生で分数がわからなければもう無理というのではなく、生活経験から分数を自分で理解することができる。」と言われていました。まさにそれです。自分でセーターを作りたい。でもセーターを作るには割合・分数の概念が必要です。数学の中では分数ができなくても、やりたいことから苦手とする概念を学び直すことはできます。  もう一つ大事なことは、苦手なことを教えるのではなく、遊びの中で子どもが楽しみながら自分で探索して練習するような場を設定していくことです。数・空間・時間・動きの言葉などは、概念自体が抽象的で難しく、誤った概念を持ちやすいです。このような苦手なことを教えるのではなく、子どもが経験する場を設定することがとても大事だと思います。

教育長:今井教授の講話の後、各連携校区で協議の時間をとり、考えたことをオンライン上に出していきました。それを受けて、今井教授と少しの時間話しました。その中で、子どもの発達段階や状況を見ながら、その子にとって手を伸ばしてみたいところに何をどう置くのか、置かないことも含め判断していくことが大人の役割だという話をしました。

―家庭や地域で、子どもたちが言葉と数に触れていく経験が、学校の学びにつながっていきますね。

教育長:そうです。家庭や地域は、子どもたちにとって体験的に言葉と数に触れ、獲得できる豊かな学びの場です。子どもたちが授業の中で、学習内容と自分の経験を重ねて語る姿をよく見かけるようになりました。授業終わりに「面白かった」「もう終わるん?」という声を聞くこともあります。子どもたちの学びを日々の授業の中でしっかり繋いでいけるよう、引き続き取り組んでいきます。

 【福山市幼保小合同研修会の詳細は、教育委員会HPへ】
HPはこちらです

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