• 三好教育長に聞く福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第45回

子どもの思考回路ってそうなのか!? ~想青学園の先生たちとの対話から~

—今年4月に開校した義務教育学校「想青学園」の新校舎が完成間近ですね

教育長:そうですね。先日、校舎の中を見学しました。各教室には、黒板ではなくホワイトボードを設置し、併設するクラスブースには、子どもが選んだ壁紙を貼っています。コミュニティ・スクールとしての教育活動が充実していくように、保護者・地域の皆様が集えるスペースもあります。児童生徒玄関を入ってすぐの場所に、だれもが心落ち着けるような居心地のよい部屋をつくり、校舎全体が多様な学びの場となるよう設計しています。17日(土)には、保護者・地域の方を対象に新校舎の見学会を行いますので、ご参加いただければと思います。
新校舎を見学した日に、想青学園後期課程(7・8・9年生)の授業を見て、先生方と対話しました。校種・教科が異なる先生が集って対話した内容がとても面白かったので、今回はその一部を紹介します。

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小学校A:数学は、「相似」の学習をしていましたね。

中数学A:今、新校舎が建っていますけど、その高さを求めるにはどうしたらいいのか、実際に測定することができない長さの求め方を考えていました。縮図をかいて計算し、「300:1」という縮尺を考えて実際の長さに変換していきました。

中社会A:直接測れない校舎をどうやって測っていくのか、生徒に予想させたりしているんですか。今日の授業の導入が知りたかったんですよ。

中数学A:「相似が使えないかな」というつぶやきが聞こえたので、「じゃあどうやって表せる?」という流れで始めていきました。

中社会A:自分だったら予想して実際の長さを測ったとき、本当にその数値が合っていたらうれしいと思います。校舎はなかなか測れないけれど、すぐそこの壁の高さとかでやってみたら面白いのかな。ところで、「縮図をかいて」と言われたけれど、その縮図をかくことが難しくないですか。

小学校A:縮図は、6年生でやりますよ。

教 頭:縮図は、社会科としても気になるよね。「縮図」という言葉をパッと出したけど、本当に理解できているのかな。あと、「1.2x=18」の計算で、両辺を1.2で割って、「x=18÷12」としたけれど、そこも子どもたちはわかっているのかな。小学校でやっているからわかっている前提は、ちょっと怖いな。やっぱり進んだり戻ったりが必要なんだと思う。

小学校A:小学生でも、これくらいわかっているだろうと思っていても、わからないまま進んでいることがありますよね。

中英語A:今日昼休憩に、まさに同じ問題「2x=4」を子どもと一緒にやりました。「『2x』の『2』が邪魔だからどうやって消す?」と聞いたら、「消しゴム」って言いました(笑)。なるほどと思いましたよ。あの子たちにどういう言葉で伝えたらいいのかな。

中数学A:xが出てきた瞬間に、わからなくなる子もいます。小学校とのつながりでいうと、「2×□=4」の□を求めることと同じなんですけど。

中数学B:「2に何をかけると4になるかな」と聞くと、「2」だとわかる子もいます。

中英語A:それはすっきり計算できるバージョンじゃん。何をかけたらいいかすぐにわからない場合はどうすればいい?

中数学B:そのときは、「左辺の『2x』を2で割ったから、右辺の『4』も2で割ろう」と言います。

中英語A:わり算が苦手だからな。ときどき数学の授業に入ったときに、「子どもの思考回路ってそうなのか」と思うことがあります。

教育長:そこに気付かれて先生方がやりとりされていることが、とってもいいですね。これは、小学校の問題ですよね。たし算・ひき算・かけ算・わり算・分数・小数といった「数」がわかっていない。その上に、中学校で相似・関数・方程式を学習しても、全部「数」が入り込んでいるからなかなかわからない。思考の過程も様々だし、こうすればわかるというような簡単なことではないですよね。とにかく関数をやりながら、もとの「数」に戻ることが大事なんだと思います。

中英語A:たし算やひき算に関することで言えば、左側の「+3」を右側に移項すると「ー3」になりますよね。なぜ符号を変えるのかがわからないんですよ。

中数学A:それも両辺を「ー3」して、「+3」を「0」にしているんです。

中英語A:そのことを伝えるときに、「真ん中の『=』を『私』として考えて。左側から3を取ったら、右側からも3を取るんよ。『=(私)』は、常に平等の立場。」と言ったけど、わかったかどうか。たし算・ひき算・かけ算・わり算が同時進行だから難しい。

小学校B:小学校で最初に「=」の記号が出てくるのは、たし算のとき。「=(は)」と習って、子どもたちは計算のたびに繰り返し使っています。3年生になって「=」は等号と学習するけれど、「『=』の左側は式、右側は答え。『=』は、式と答えをつなぐもの」と思い込んでいるので、左側と右側が等しいという「イコール」の意味を後からつかむのは難しいんだと思います。今日も相似比が出てきていたけど、右側と左側が等しいと思っていたかどうか。

小学校C:式だけ書く問題のときには「=」はいらないと言っても、「4×6=」と「=」をよく付けていますよね。

教育長:「=(は)」と習っていても、「=(イコール)」を習ったときにスッと入る子と、そこが難しい子がいますよね。「=」を「私」と考える先生の話は具体でよくわかったけれど、分数の計算のように具体に置こうとすると逆に混乱するようなこともありますよね。

中社会A:そこを乗り越えるには、やっぱり反復なのかなと思います。今日「わかった」と言っても、3日経ったら「なんだったっけ?」となる子はたくさんいます。理解したと思っていても、テストを見ると「あれ?」って思うことがある。

中数学A:ありますね。別のアプローチをすると、かえって混乱することもあるし、どこでどう理解していくのかは、その子それぞれなんだろうと感じています。

中数学B:アプローチの引き出しをいろいろ持っておかないと、その子に合わせたことができないですよね。

中社会A:スポーツでも、一度聞いてすぐできる子もいれば、聞いて理解はしているけど、できない子もいる。でも、繰り返して練習を積み重ねたらできることもありますよね。

教育長:人によっても違うけれど、繰り返すことは必要だと思います。短期的にやるよりも、間隔をあけて忘れかけた頃にやる方がいい。小学校で、九九を一生懸命繰り返して覚えても、九九が使えない中学生がいます。繰り返して自分のものにしても、生活や授業の中で使っていかなければ忘れてしまいます。陸上の為末さんが、「リアリティーのある繰り返し」と言われていたけれど、目的や意味を考えた繰り返しが必要ですね。

校 長:6年生が、5年生で学習する割合の問題ができていなかったよね。中学校の数学で割合の学習は出てこないけど、割合を使う場面はあると思う。5年生で学習したから終わりとするのではなくて、中学校の数学の中でも、戻ってやっていけばいい。

教育長:中学生になって戻るからこそ、5年生のときにわからなかったことが、改めてストーンとわかることもありますよ。

中英語A:英語も、中1の教科書は、ほぼ5・6年の総まとめをしている感じです。「How many」は、小3で出てきて、「one」「two」と子どもは答えています。「Howmany」の後に複数形がくるということは中1で学習するけれど、感覚的に使って染み込んでいることを中学校で整理して、その意味がわかった上でさらに使っていく。たぶん数学とかも同じじゃないかな。

教育長:2歳くらいの子が「行った」「行く」などの過去形・未来形の使い方をどうやって覚えていくのかと思いますよね。耳から聞いた音と場面をつなげて意味を推測し、使っていく中で自分のものにしていくわけです。文法として習うわけではなく、言葉が先にきて、生活の中で繰り返し言葉と場面に触れながら、感覚的に使えるようになっています。中学生で学習することを小学生がいっぱい言葉として使っていますよね。それを今度は文法として整理していく。数学や社会も同じですね。生活の中で経験していることと学習を結びつけて、「それが関数だ」と言うと、意味の理解ができていくのだと思います。

(この後も対話は続く・・・)

—校種・教科が異なる先生方が対話することで、いろんな視点からの意見を聴くことができますね。

教育長:そこが、面白かったですね。認知のしくみから学びを考えたとき、教科・学年に壁はありません。校種・教科を超えて対話することは、子どもたちとの授業を考えていく上で大事なことだと思います。想青学園では、来年1月から一つの職員室に皆さんが集うことになります。子どもの学びを中心において、どのような会話が繰り広げられていくのか、とても楽しみです。

想青学園新校舎落成式  1月12日(木)午前10時~11時

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