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三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第17回

三好教育長に聞く 福山100NEN教育

多様な学びの場について

 福山100NEN教育が目指す「子ども主体の学び」全教室展開の実現に向けた取組の一環として、多様な学びの場の整備を進めています。その中で、本日は、「きらりルーム」(校内フリースクール)と福山市フリースクール「かがやき」(校外フリースクール)についてお話を伺います。

—「きらりルーム」や「かがやき」はそれぞれどのような場所なのか教えてください。

教育長:「きらりルーム」や「かがやき」は、学校内外にあるフリースクールです。子どもたちが自分で時間や内容・方法等を決めて、自分のペースで学ぶことができる場です。部屋は、カーペットを敷いたり、ソファーを置いたりして、居心地の良い空間となるようにしています。仲間と集うためのスペース、個別学習のためのスペース等、レイアウトを工夫して、自分に合った学び方を選択できるようにしています。興味があることを夢中になって調べている、苦手な教科の学習に取り組んでいる、スタッフと栽培活動をしている、異学年の仲間と一緒にスポーツを楽しんでいる、自分のやりたいことを探している等、さまざまな子どもたちの姿が見られます。

 「きらりルーム」は、2018年度(平成30年度)、市内6中学校(東中・城南中・城東中・中央中・誠之中・神辺中)へ、昨年度、2小学校(曙小・新涯小)へ設置しました。専任の教職員2名が担当しています。その学校に在籍している児童生徒であれば、誰でも利用できます。

 「かがやき」は、市内3ヶ所へ設置しています。北吉津町の「福山市教育相談センター内」に〈中央〉、引野町南の「福山市研修センター内」に〈東部〉を設置しています。そして、今年4月、松永町の「松永コミュニティセンター内」に〈西部〉を新設しました。所長をはじめ4〜5名のスタッフが子どもたちの学びをサポートしています。福山市内在住の小中学生であれば誰でも、自分に合った場所を選んで利用できます。

—校内にあるフリースクールは全国的にも珍しいと思うのですが、どのような考えでつくられたのですか?

教育長:これまで学校では、みんなが同じ教室で、一斉に、同じ内容の学習や活動をすることを大切にしてきました。当然、その良さもあります。しかし、世の中がどんどん多様化している中で、変わらず学校では、みんなと同じことを求め続けています。このような中で、一人一人の考えや思いが言えなかったり、いつもみんなと同じペースで学習することがしんどくなったりして、学校に行けない、行っても教室に入ることができない子どもたちの姿を、たくさん見てきました。

 「きらりルーム」は、そのような子どもたちも、安心して学ぶことのできる場として設置しました。そして、「きらりルーム」で見られる子どもたちの姿や声から、学習でわからなくなっている内容やしんどい思いを教職員が知り、学校・教室の中にある様々な困難さや息苦しさを子どもたちと一緒に考え、変えようとしています。すべての子どもたちにとって学校が、伸び伸びと自分らしく生活し、学ぶことのできる場になるように取り組んでいます。

—校内に、それまでの学校にはなかった場所ができることについて、子どもたちや教職員の反応はいかがでしたか?

教育長:子どもたちより、教職員に戸惑いや、少なからず反発もあったと聞いています。「居心地の良い場所かもしれないが、甘えさせるだけではないか」「自由に好きなことをさせる。そんなことを許したら、他の生徒に影響し、学校が荒れる」など、心配する声が様々に出されました。私が「きまりは誰のために、何のためにあるのか。きまりをすべて無くしたらどうなるのか」などと投げかけ、更に議論を求めたこともありました。少しずつ理解を深めながら取り組んでいきたいと思っています。

—きらりルームを設置して2年が経過しますが、変化は見られますか?

教育長:きらりルーム設置校では、不登校児童生徒数が減少しています。要因は、不登校だった子どもがきらりルームを利用するようになったからだけではありません。きらりルームの取組から、教職員が改めて子ども一人一人の学ぶペースや興味・関心は違うことを感じ、一人一人の状況に応じた対応を、より丁寧に行うようになったからだと捉えています。また、これまで当たり前にあった学校のきまりや取組を「本当に子どものためになっているのか」という視点で見直し始めています。

 しかし、まだまだです。教室には授業がわからず、ただ黙って座っている子どもがいます。教室の中で、子どもたちが、「わかった・わからない」ということや、自分の経験・思いを、周りの目を気にすることなく言える状況になっているのか、引き続き、問い続けていきたいと思っています。

—次に「かがやき」について詳しく教えてください。

教育長:福山市フリースクール「かがやき」は、昨年度8月までは、「適応指導教室」として運営していました。名前のとおり、さまざまな理由でなかなか学校へ行けない子どもたちが、学校に適応できるように指導するための教室でした。子どもたちや保護者の多くは、「学校に行かなければならない。行けないのはよくないことだ」というような、社会の中にも自身の中にもあった価値観に苦しめられているように思いました。しかし、その子どもにとって、今、ふさわしい学びの場は、必ずしも学校ではないかもしれません。学校以外の学びの場の重要性を感じています。民間ではさまざまな学びの場が提供されていますし、国も認めています。

 公が提供する学校外の学びの場の一つとして、「かがやき」を選んでもらえるよう、名称を変え、環境整備を進め、内容を充実させていきます。紹介するリーフレットを新しくつくりました。自分らしく学べる場、保護者の方々が集う場として利用してください。

—名称が変わったことで変化はありましたか?

教育長:昨年度は、一昨年度と比較し、利用者数は2倍以上になりました。家からなかなか出られなかった子どもが、「行ってみようかな」と思い短時間の利用をしたり、普段、学校に通っている子どもが「少人数で学習したいな」と思った時に利用したりと、さまざまな状況の子どもが自分に合った利用の仕方をしています。保護者の方も「かがやき」を学びの場として理解してくださるようになってきています。

—「きらりルーム」や「かがやき」は、どちらも子どもたちが自分らしく学べる場なのですね。子どもたちの様子について詳しく教えてください。

教育長:子どもたちは、教科の学習、読書、少人数でのゲーム、体育館でスポーツなど、さまざまな活動や学習を自分で選択し、組み合わせながら、過ごしています。

 教科の学習は、タブレットを活用して学習したり、所属しているクラスの時間割と同じ教科の学習を自習したりしています。「きらりルーム」では、各教科の先生が来室したり、「かがやき」では、教育委員会の指導主事が行ったりして、学習を支援することもあります。

 また、子どもたちが栽培活動の中で見つけた疑問を解決するために、インターネットを使って調べたり、調理活動でうまくいかなかった経験から、次回に向けてどうすればよいのか意見を出し合って解決方法を考えたりするなど、活動からも多くの学びが生まれています。

 好きなことに夢中になっている姿も見られます。小学校3年生の子が世界のすべての国の場所を覚えたり、小学校5年生の子が百人一首の上の句と下の句をすべて言えるようになったりしています。先日は、中学3年生が作成した切り絵の作品をいただいたのですが、細部にまでこだわり抜かれていて、完成度の高さに驚き、あらためて「凄い!」と感じました。

 教えてもらって覚えることや、決められたことに取り組むことも必要ですが、自分でやりたいことを見つけてやってみること、好きなことを追究することもとても大切です。

—100NEN教育が目指す「子ども主体の学び」の姿が、「きらりルーム」や「かがやき」の中にもたくさん見られているのですね。最後に、今後の展望について聞かせてください。

教育長:今年度中に、国のGIGAスクール構想で一人一台の端末を配付します。このことによって、「いつでも・どこでも・だれとでも、どのようにでも」と、学びの「時間・場所・対象・方法」等を自分で選択・決定できるようになります。学校の役割、学校の姿、授業の姿がますます変わってきます。その中で、フリースクールの役割も、とても重要になると考えています。

 子どもたちの個性や経験、環境は一人一人異なります。今後も、そうした違いを大切にし、すべての子どもたちが、学ぶ意欲や知的好奇心を発揮しながら、自ら学び続ける力でたくましく未来を切り開いていけるよう取り組んでいきます。

びんまる2020年8月号より

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