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三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第16回

三好教育長に聞く 福山100NEN教育

学びを繋ぐ

 福山市立のすべての学校が、6月1日から全面再開しました。再開後の子どもたちや学校の状況について、三好教育長からお話を伺います。

小学1年生の「やりたいこと」

—学校が再開しました。初日は、どのような状況でしたか。

教育長:感染等への不安や休業中の学習など、子どもたちの状況はさまざまです。休業中に、それぞれが家庭でやってきたことを大事にしながら、学校での学びをゆっくりスタートできるよう、教育委員会として学習等の進め方(展開例)を示しました。

 再開初日は、指導主事がすべての学校に行き、再開後の状況を見て、アドバイスなどをしています。私も、4校に行きました。久しぶりの学校に少し疲れているように見える子もいました。しかし、休憩時間になると、元気な姿を見ることができました。各学校では、展開例を参考にし、子どもの「やりたいこと」から学び始めている教室や、「学校の新しい生活様式」について話し合っている教室がありました。

 「元気にスタートしました!」というよりは、不安や緊張、みんなが集まれたうれしさなど、いろんな思いが交錯する中で、緩やかなスタートだったと思っています。

話し合いをしている中学1年生

—展開例は、HPにも掲載されていましたね。資料の中に「三度の休業はしない!」という言葉もありました。学校では、どのような感染防止対策を行っているのですか。

教育長:文部科学省が示した衛生管理マニュアル「『学校の新しい生活様式』について」を踏まえ、対策を行っています。

 まず、感染源を絶つために、発熱等の症状がある児童生徒・教職員は、自宅で休養することにしています。児童生徒については、「健康観察カード」をもとに、登校時に、学校が健康状態を把握しています。

 感染防止対策としては、「身体的距離の確保」「基本、常時マスクの着用と咳エチケットの徹底」「こまめな手洗い」「ドアノブ、手すり等の消毒」の4つを基本に実施しています。また、「3密」を避けるため、教室は、こまめに換気し、トイレ・手洗い場等は、待つ場所に印をしたり、順番に使用したりするなどの工夫をしています。休憩時間に一斉にトイレに行くと密になるので、休憩時間だけでなく、いつでもトイレに行けるようにしている学校も多くあります。

 給食については、6月1日から5日までの1週間は、通常より品数を減らし、配食時の感染リスクの低減に努めました。また、食べる際に、机を対面でなくスクール形式にし、会話を控えるようにしています。

—各学校では、休業中に続き、感染防止対策を徹底しているのですね。

教育長:「感染防止対策を徹底する」というと、「これをしなさい!」「これはしてはだめ!」という指示・注意のイメージをもたれるかもしれません。そうではなくて、お互いのこの間の思いを大事にしながら、お互いを守るということだと考えています。

 休業中、「一人でいるのが寂しかった」「ずっと家にいるのがしんどかった」「友だちに会いたい」「学校に行きたい」という思いをもった子どもたちが、たくさんいます。一方、休みがちだった子は、「みんな学校に行っていないから、家にいるのが楽だった」と思った子もいます。また、自由登校に休まず来た子もいます。このような中で、再び集まったこの時間と場所を大事にしようということです。

 このような子どもたちだから、お互いの命を守るために「距離をとろう」「手をちゃんと洗おう」と、自分で考えて行動する、できると思っています。そのために、例えば、6月1日は、感染防止対策として、手洗いを喚起する掲示物やトイレ・手洗い場の密を避けるための足型マークをしていたけれど、子どもたちの様子を見て、取り外した学校もあります。また、教職員が再開までに議論する中で、そのような掲示物をあえて貼っていない学校もあります。

 何かをやることばかりが対策ではなく、やらないことも、子どもたちが自分で考えて行動するための対策というか、必要なことだと考えています。

 各校には、今まで学校にあったきまりを「ゼロ」ベースにして、「お互いの命を守る新たなルール」をつくることを求めています。このことは、コロナ禍だからできる生きた「子ども主体の学び」であると考えています。

—6月号で紹介した子どもたちのチャレンジの中にも、自分で感染防止対策ブックを作っている子がいましたね。ところで、HPに掲載されている子どもたちのチャレンジは、この一ヶ月でずいぶん増えましたね。

教育長:6月号で紹介した作品の数は、17点でした。現在(6月23日)、488点の作品が教育委員会に届いています。届いた作品は、「調べてみました」「つくってみました」「追究してみました」に分けて、HPに掲載しています。学校名・名前・作品の写真・作品のコメントも載せていますので、是非ご覧ください。

 休業中の期間は、子どもたちにとって、学びが止まった、失われた時間ではありません。学校が提示した課題のみならず、コロナ禍の中で、さまざまな情報に溢れ、感じ、考え、自分なりに学んだ時間であったと思います。

—子どもたちのチャレンジを見てみると、そのことが伝わってきます。教育委員会や各学校のHPを見ると、今まで以上に学校の情報を得ることができるようになりました。休業中に、ICT環境整備も進んでいるようですね。

教育長:この休業中に、Google社の「Google Classroom」を利用できるアカウントを作成しました。保護者の皆様には、ご理解、ご協力をいただき、ありがとうございます。「Google Classroom」を利用することで、学校からの毎日の健康観察・アンケートに回答することや、配信された課題・小テストを受け取ることができるようになりました。再開後も、授業後のアンケートなどに活用している学校もあります。

中学2年生のチャレンジ 「X線検査ではどうして人体が透けて見えるのか?」 コロナウイルス肺炎を発見する線検査に疑問を持ち、調べたもの

 本市では当初、今年度から5年間かけて、義務教育段階の市立学校すべての子どもたちに対して、一人一台の学習端末(タブレット)を整備する計画としていました。しかし、この状況の中、子どもたちの「学びの保障」の観点から、整備期間を前倒しし、今年度中にすべての子どもたちに対して、端末を整備することとしました。

 整備する端末は、学校の授業での活用にとどまらず、子どもたちが文房具のような感覚で、使用場所を限定せず、学校、自宅、校外など、自分のものとして使用できるようにします。具体的には、

*課題や目的に応じて、記事や動画等の様々な情報を収集・整理・分析する調べ学習
*推敲しながらの長文作成、写真・音声・動画等を用いた資料・作品制作等の表現活動
*海外等、遠隔地とのオンライン会議を通した多様な言語、考えに触れる意見交流
*デジタル教材等による学習速度や習得度に応じた繰り返し学習 など

 これらの活用場面を通して、子ども自らが、選択・決定できる学習を充実させていきます。また、流行性疾患や災害による学校休業時においても、端末を活用した教材学習や学校と子ども・保護者間の連携を行い、学びの環境を維持・継続していきます。

 今後も、ICT環境整備をさらに進めていきます。環境は、ないよりある方がいいです。しかし、あるからといって、すべてが解決できるとは思っていません。引き続き、子どもたちが、ICTも活用しながら、学ぶ場所・方法・内容等を自分で選択・決定し、「自ら考え学ぶ力」を身に付けていけるよう、「子ども主体の学び」を追求していきます。

びんまる2020年7月号より

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