• 三好教育長に聞く福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第12回

三好教育長に聞く 福山100NEN教育

教育長&初任者 フリーディスカッション

今年度6月号で、三好教育長が初任者141人全ての学校を訪問されたときのエピソードを紹介しました。それから1年。子どもと共に頑張ってこられた先生方が、先日、福山市で行う最後の研修がありました。研修の中で、先生方は8つのグループに分かれ、1年間を振り返り、感じていること考えていることを交流し合いました。その交流に三好教育長も入られ、全てのグループで、「教育長&初任者フリーディスカッション」が行われました。今回は、その一部を紹介します。

小学校教諭・養護教諭のグループ

養護教諭:養護教諭は学校の中で、体調不良の子を見たり、健康相談をしたりしています。その中で、教室に行きたくないという子の対応もしていて、先生方との連携に難しさを感じています。例えば、友だちとけんかをして保健室に来た子は、気持ちが落ち着くまでいるんですけど、どこの段階で教室へ連れて行くといいのか、そこからどうしたらいいのか困っています。先生方が、養護教諭に求めていることが聞きたいです。

小学校教諭:けんかをして興奮したときに、教室では落ち着けなくて、保健室へ行く子がいました。その子がクールダウンすると、養護の先生が教室まで連れて来てくださいます。そのときに、こんなことをすると、その子が落ち着いたんだという状況をいつも教えてくださっていました。その子なりのクールダウンの仕方があると思います。それを養護の先生から教えてもらえて、教室で同じようにその子が落ち着ける環境をつくってみると、3学期に入ってから、保健室に行くことがなくなりました。養護の先生からは、子どもへの関わり方を教えてもらっています。

教育長:先生たちにとって、養護の先生は、どんな存在ですか?

小学校教諭:お母さんみたいな存在です。養護の先生は、いろんな子どもや先生方を客観的に見ておられるので、人間関係や自分の悩みを相談すると、「こんな考えもあるんじゃない」とアドバイスしてくださいます。

小学校教諭:私の学校も、お母さんのような方です。学校で出会ったら、いつも声をかけてくださいます。それから、子どもは保健室に行ったときに、ぽろっと教室での悩みを話すことがあります。そういった私が知らなかった子どもの情報をいつも教えてくださいます。

小学校教諭:自分にとっては、子どもたちとの関係をつくっていく中で、養護の先生は、なくてはならない存在です。なかなか高学年になると、子どもも周りの目を意識して、相談する相手を選ぶと思います。自分に相談しづらいことを養護の先生に聞いてもらっているので、子どもがどんな話をしたのか、後から教えてもらっています。

教育長:保健室という場所は、先生たちも疲れたときに相談に行ったり、子どもにとっても自分を受け入れてもらえたり、違う自分を出せる場になるんだと思います。中学校の保健室になると、非常に深く重たい内容を生徒が話したりすることもあるので、養護教諭は、「どうすればいいのか」という迷い悩む情報を持ったりするわけですよ。そういうものがいっぱい保健室にはあります。その情報と先生たちが教室で見ている子どもの姿が一緒になって、その子の見えていなかった姿がいくらか見えてきた時に、関わり方が変わっていきます。そうすると、子どもの方も、いつの間にか変わっているという状況が起きてくると思います。

 こんな大切な情報が保健室にはたくさんあります。情報は鮮度が大切です。夕方になると、使えない情報になるかもしれません。仕入れたときの情報が情報として生かさるためには、誰かを間に入れてでも、養護の先生に伝える、担任の先生に伝えるということを、日常的にしていくことが大切です。こうして、子どもの姿が変わっていくんだと思います。

 給食の先生、栄養士の先生、事務の先生など、学校の中で担任の先生とは違う役割をもった仕事をしている人と、子どもはいろんな接点をもっています。その人、その場所だから見せる顔や話す言葉があります。少し話をしてみると、子どもの情報をたくさん持たれていますよ。学校の中で、いろんな先生方としっかり連携して、一人一人違う子どもの状況を知ることで、教室での子どもの見方や先生方が変えたいと思っている授業が変わってくるのだと思います。

 

中学校教諭のグループ

中学校教諭:10年後の学校はどうなっていると思いますか?

中学校教諭:黒板はなくなっていると思います。

中学校教諭:どんどん人が減って、クラスの中にいろんな国の人がいると思います。

中学校教諭:クラスがないんじゃないかな。担任制もなくなっていると思います。

中学校教諭:自動運転で、マイカー通学になっていると思います。

教育長:学校がありますかね?子どもが自動運転の車に乗って、学校に行きますかね?そんな状況になって、学校に来て何をするんですか?

中学校教諭:「学校って、10年後はある?」「先生って、まだ10年後はいるかな?」と生徒に聞いたことがあるんですけど、生徒は、「学校はあると思う」と言っていました。「何で?」と聞くと、「楽しいじゃん」「みんなで集まる機会がなくなるのはいやだ」「みんなで集まる学校はある。でも、先生はいないだろう」と言っていました。「先生はどうなるの?」と聞くと、「先生は映像授業とか、ロボットになる」と言っていました。そうなると、家でもタブレットがあれば、授業を受けられます。でも、子どもたちは集まりたいらしいです。好きな時間に、好きな子が集まって、好きなことをやりたいようです。

教育長:学校へ行きたいという子もいるけれど、今、全国的に不登校がどんどん増えています。学校へ行きたくないということです。このペースでいくと、そういう子たちがどんどん増えていくということですよね。

中学校教諭:さっきみたいに、好きな時間にということになったら、不登校は減りませんか?

教育長:だから今、通信制の高校やフリースクールが増えてきています。ということは、10年後、先生たちはどうなっていますか?

中学校教諭:確かに…。自分はここからここまでというようなシフト制になる?

中学校教諭:学校は、地域社会に根付いているものだし、なくならないんじゃないかと、私は思います。自分たちが通ってきたものを、大人はなくしたくないから、学校の形自体は消えないと思います。共働きで家を空ける人とかもいるから、子どもだけ家に残すのはどう考えても不安ですよね。だから、学校は残ると思います。

教育長:福山市も学校再編をしています。学校は地域のためにあるのではなく、子どものためにあります。子どもがいなくなれば、学校の存在意義はなくなります。この10年間でも、全国的にかなりの数の学校がなくなっています。今のまま少子化が進むと、学校がなくなる方向にどんどん加速するでしょうね。

 10年後どこまでどうなっているかわかりませんけど、今ものすごいスピードで世の中が動いています。過去の10年とこれからの10年は同じものさしでは測れません。自動運転の車やドローンが、どれくらい生活の中に入り込むのか。そして、新しいものがどんどん生まれてくる中での学校は、黒板がなくなっている程度ではすまないんだと思います。そういう中で、皆さんの教師生活はスタートしたわけです。今、変えようとしていることは、指導方法や先生としてのスキルアップの話ではなくて、これからどう生きていくのかということに直接関わってくることだと思います。もっと切実です。子どもたちは、まさにこれまで見たことないようなことが現実に起こってくる世界を生きていくわけです。

 そういった10年後を恐れるのではなく、今までできなかったことができるようになるし、そこへ向かっていくんだというわくわくする気持ちをもちたいですね。今、学びを変えようしていることは、変化の激しい社会とつながっています。そういう時代を生きていくために、学ぶとは、教えるとは、先生とは、学校とは、どういうことなのか、何なのかという問いです。答えなんか誰も持っていません。それぞれの場所でそれぞれが探し続けていくしかないんです。皆さんの挑戦が、皆さんの試行錯誤が答えだし、未来を創っていきます。

 是非また学校へ行きます。声をかけて下さい。声をかけますので、話を聴かせてください。

びんまる2020年3月号より

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