• 三好教育長に聞く福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第31回

三好教育長に聞く 福山100NEN教育

第18回福山教育フォーラム(後半)

 8月2日(月)市内教職員をはじめ保護者、地域関係者などを対象にした「福山教育フォーラム(第18回)」が開催され、2200人以上がオンラインでつながりました。先月号は慶應義塾大学の今井むつみ教授と元陸上選手の為末大さん、三好教育長によるパネルディスカッションの内容をお伝えしました。今月号は、後半の内容について三好教育長からお話を伺います。

教育長:後半は今井教授の認知学習論を学ぶ6人の学生に参加していただきました。はじめに学生がグループごとに作成した「子どもへの支援の在り方」の動画を視聴しました。その後、私がファシリテーターを務め、学生の皆さんの声を聴いていきました。その内容の一部を紹介します。

慶應義塾大学の学生さん三好教育長

教育長: 認知学習論の講義を受けられて、大きな気付きや変化がありましたか。
学生A:すごく印象に残ったことは、ある小学生が56円というお金を出すときに5円と10円と6円を出していたことです。それを見て何かできるのではないかと感じ、この授業に取り組みたいと強く思うようになりました。それからグループのメンバーと何十時間もディスカッションを重ねて、やっと絵本と劇が完成しました。
教育長:数で混乱している子どもの姿から考えられた絵本と劇の中で「くくる」という言葉が出てきていました。この言葉は、どのような議論の中から出てきたのでしょうか。
学生B:日常的に使うお金について、わかっていない小学生がいることにまず驚きました。「56」という数は「5個の『10』と6個の『1』」というように「くくる」という概念を使って考えます。そこがわかっていないことが問題だと感じたので、劇で表してみようという話になりました。
学生C:劇を考える前に「子どもたちは数がくくられるまでのプロセスをあまり考えたことがないのではないか」という話になりました。例えば、お金が1円玉しかなければ56円を数えるのに苦労します。そこで1円玉10枚を10円玉とまとめたらいいんだと考える。細かい単位がまとまって一つの大きな単位になるというプロセスを知ることで、単位に対する理解が深まるのではないかと考えました。
学生A:「くくる」ということは、いろんな物事に使われていると思います。例えば「1/2」という数を考えるときに全体を「1」として捉えるけれど、りんご1つでも「1」、地球一つでも「1」です。大きさは違うのに、すべて「1」になるということは、すごく気持ち悪い感覚だと思います。僕も初めて分数を習ったときに数は同じなのに大きさが全然違うということにすごく違和感がありました。その「気持ち悪い」という感覚を乗り越えて慣れていくということも伝えたかったので「気持ち悪いな」という言葉を劇に組み込みました。
教育長:そのような過程の中で「初めは慣れないかもしれないけど」「(1円玉10枚と10円玉1枚が同じだなんて)何か気持ち悪いな」という言葉が出てきたのですね。今聞いてよくわかりました。学校へ行って子どもが考えている過程を見ていると、その違和感で止まっている姿を見ることがあります。それにしても子どもの頃に感じたことを今も覚えているとはすごいですね。他にもご自身の小中学校生活を振り返られて覚えていることはありますか。
学生D:基本的に小中学校の授業では先生が新しいことを教えてくれていました。先生は、できるだけ双方向的な授業にするために子どもが発表する場や話し合いの時間をとってくださっていたけれど、圧倒的にその時間は少なかったです。どちらかというと、受動的にひたすら授業を受けているという感覚が強かったです。
今回の認知学習論の授業で受動的な受け方だと学習効果があまり大きくなく、双方向的な学習が大事だと学びました。子ども同士で話し合う、議論する、先生を交えて話し合うという授業になっていくといいと思います。
学生E:私は小学校で、たし算ひき算わり算がなんでこうなるのか全くわかりませんでした。わからないことをどう聞けばいいかもわからなくて、親や先生から「この公式を覚えて」と言われたことをとりあえず覚えていました。
認知学習論の授業で「分数をどうやって説明しようか」と考えようとしても、どうしても思考が及びませんでした。今まで何でそうなるのかを考えたこともなく、わからないまま放棄してしまっていて「これはこうだ」とただただ覚えてきただけだったんだということを実感しました。
教育長:さすがですね。認知学習論を学び自分の経験と重ねて考え、議論しながら理解がどんどん深まっていっているからこそ出てくる言葉ですね。感動しました。皆さんの中から、どんな言葉が出てくるのかもっと聴いてみたいです。
学生F:他のグループの発表の中に、算数の縮尺を学ぶ過程で「アリのためにお家をつくろう」というプロジェクトを入れて、算数と図工をつなげて学ぶ授業提案がありました。自分が小中学校のときは一つ一つの教科が独立したものとして考えられていて、図工の時間に算数を使うことはありませんでした。教科を分けるのではなくて体育を活用して数学を学ぶ、美術を通して数学を学ぶという授業をすることで、より多くの生徒の学びが深くなると思います。知識としての理解だけでなくて身体で理解する、経験として理解することの方が長続きするし、子どものやる気も違ってくると思います。そういう意味で一つ一つの教科を分けて考えるのではなくて、統合していく授業が今後望ましいと思います。
学生B:講義の中では特に算数と言葉の話がよく出てきていました。数学と文章は、ほとんど同じジャンルではないかと個人的には思っています。違う分野同士がつながった方が効率も上がるし楽しいので、要所要所で教科がつながっていくといいと思います。
今回の提案を劇にした理由の一つは、子ども同士でどんどん勝手に学んでいくようになればいいと思ったからです。授業の中で先生がいろんな言葉を使ってわかりやすく伝えることも大事ですけど、子ども同士でいろんな言葉が飛び交っている中で、ぱっとわかったりする体験があるとモチベーションも上がると思います。
学生F:グループでプロジェクトを体験しながら進めていくと、自然と子ども同士で自分の言葉で伝え合っていくと思います。いろんな教科の授業を通して言葉の力を鍛えることができれば、その言葉の力を用いて、さらに複雑な思考ができるようになると思います。
教育長:一人一人お話いただいた言葉が素晴らしいですね。講義の中で得た知識や本を読んで得た知識が自分の経験や議論したことと結びついて、まさに使える知識になっているのだと思います。このような皆さんがこれから創り出す未来が楽しみです。短い時間でしたが、とてもうれしい時間でした。ありがとうございました。
コロナの感染状況が落ち着いた頃には、是非福山へお越しください。福山の子どもたちの姿を見ていただきたいし、先生たちとも話をしていただければと思います。お待ちしています。

 

 

びんまる2021年10月号より

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