- 三好教育長に聞く福山100NEN教育
三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第28回
三好教育長に聞く 福山100NEN教育
「子どもの学び」を考える(2)子どもの「わからない」
—前回からシリーズで「子どもの学び」についてお伝えしています。今月号では言葉と数について子どもがよくする間違いを取り上げ、子どもの頭の中でどんなことが起きているのか、三好教育長にお話していただきます。とくに就学前、小学校低学年のお子様に関わっておられる方、是非一緒に考えてみてください。
—数を数えると…「99・100の次は?」「108・109の次は?」
【よくある間違い】
1ずつ数えていくと…
☆99,100,200
☆99,100,101,202,303,404
☆108,109,102,103
☆108,109,200
☆100,200,…800,900,200
10ずつ数えていくと…
☆10,20,…80,90,100,200,300
1年生の教室で、よく見かける間違いです。このように数える子は、どこにつまずいているのでしょうか。
生活の中で数を当たり前のように使っている大人にとって、数を数えることは簡単です。しかし、数の世界に少ししか触れていない子どもにとっては、とても難しいことです。「9・10・11…」「99・100・101…」「109・110・111…」のように位が上がるところで、多くの混乱が見られます。
位が上がるところでつまずくのは、1年生に限ったことではありません。3年生から小数の学習が始まります。「0.1・0.2・0.3…0.8・0.9」と言った後、次はどうなると思いますか。
大人はもちろん「1.0」と言うでしょう。しかし「0.10」(れい点じゅう)と言う子が、かなりの割合でいます。「そう言われたらそうだなあ」と、つい思ってしまいそうです。
小数と同じくらい分数も難しいです。分数の学習は「1/2・1/4」など、1より小さい数から始めます。図①は「3/5」ですよね。図②を見て、子どもは何と言うと思いますか。
多くの子が「6/6」と言います。そう答えることも、わからなくもありません。ある調査で「1/2」と「1/3」どちらが大きいかを聞くと、5年生でも半分くらいの子は「1/3」が大きいと答えていました。(もちろん分数の学習をしているときは、ドリル等で繰り返し多くの子はできるようになっています。)
そもそも「1・2・3」と数えてきた子どもにとって、「1」と「2」の間に数があるということ自体、受け入れがたいことなのかもしれません。
数は抽象的でわかりづらいので、低学年ではブロック、数え棒、お金など具体的なものを使って数に触れていきます。例えば図③。これは何円ですか。
10円玉が4枚と1円玉が4枚で44円ですよね。しかし「1・2・3…7・8」と数えて「8円」と言う子もいます。これを10円玉4枚だけにすると、何円と言うと思いますか。
14円です。10(じゅう)円玉が4(よん)枚あるから14(じゅうよん)円です。
図④を見てください。「23円出して」と言われて、図④のように出す子がいます。適当に出しているわけではありません。子どもなりに考えて出しています。「に・じゅう・さん」円という言葉(音)通りに出しているのです。
お金は子どもにとって身近な数なので、わかりやすいと思われるかもしれません。しかし、1・10・100と桁が上がるごとに硬貨の種類が変わります。1円玉が10枚で10円になり、それが10円玉と同じであると理解することは子どもにとって、とても難しいことです。
位が上がる感覚をつかみ数を数えることはできるようになっても、10や100を単位とした数の見方は、それ以上に難しくなります。例えば、上のような間違いが見られます。
「10が16個で160になる」と教えても「『16』の『6』が『60』になるのはおかしい!」と言って、今までの経験から得たその子なりの理屈があり、自分の思い込みからなかなか抜け出せません。
【よくある間違い】
☆10と10で100
☆10が16個で116
☆10が45個で405
☆100が3個で103
☆100が36個で360
—「公園に行ったのは、3日前じゃない。3日うしろ。」
時刻・時間は子どもにとって、とても身近な数です。この時計の時刻は「4時40分」。時計の針は「8」を指しているのに「40分」。しかも「50・60・70・…」と数えてきたのに、時刻には「70分」がない。時間には「70分」がある。これも難しいですね。
時刻・時間だけでなく「一日は何時間?」「一週間は何日?」「一年は何ヶ月?」「一年は何日?」といった生活の中で当たり前に使っている言葉が、3年生でもわからない子が多くいます。
カレンダーを見てください。7月7日七夕の3日前と言われたら、7月4日です。しかし、低学年の子の中には、7月10日と答える子が一定量の割合でいます。なぜだと思いますか。
「前」と言われたら、カレンダーの数字を前に進めたくなるのだと思います。時間と空間では「前」と「後」の使い方が逆になります。例えば「一週間先」というのは、「一週間後」のこと。時間では「先」と「後」が同じ意味になります。しかし、空間では「先」と言えば「前」のことを表します。だから「前後」という言葉を使った文章題に、子どもたちがつまずくことが多いのです。
—「のりがとけちゃった!」
4歳くらいの女の子が工作をしているとき、のりが倒れて中に入っていた水のりがこぼれました。このような状態になったとき、多くの人は「のりがこぼれた!」と言います。
ところが、この子は「ママ!のりがとけちゃった!」と言ったのです。この言葉には驚きました。のりがこぼれて言葉を発するまでに、この子の頭の中では、どんなことが起こっていたのでしょうか。
おそらく、この子は氷か何かが解けた状態を見たとき、だれかが「解けた」と言ったことを聞いて、この状態を「とける」と知った。そして、水のりがこぼれたとき目の前の「こぼれた状態」と今までに自分が見た「とけた状態」が結びついた。そして、自分が持っている言葉の中から「とける」という言葉を取り出して「とけちゃった」と言った。このような思考が、子どもの頭の中で瞬時に働いています。
状態や動作を表す言葉には、似ている言葉がたくさんあります。この絵を見て「帽子を頭に( )います」とあれば、( )の中には何が入るでしょうか。
低学年であれば「かぶって」を入れる子は、半数くらいです。「のせて」「つけて」「はめて」「おいて」…などの言葉を使う子もいます。例え「かぶる」という言葉を知っていても「かぶして」「かっぶて」など、使い方や表記を間違えることもあります。大人が、言葉一つ一つを丁寧に教えてあげなければならないと思われる人は多いかもしれません。
先日、書店の絵本コーナーに2歳くらいの子とお母さんがいました。そこに置いてある犬のぬいぐるみを触りながら、お母さんが「ワンワン」と教えると、「ワンワン」と言っていました。しばらくして、その子は別の場所に置いてある恐竜のぬいぐるみを触りながら、「ワンワン」と言っていました。どちらも、かわいいぬいぐるみです。「ワンワン」と言うのも無理もないですよね。
大人が子どもに言葉の意味を教えても、その言葉が使える範囲や、いつ・どのように使うかまで教えることはできません。子どもが生活の中で、見たり、聞いたり、触れたりする中で間違いながらも時間をかけて、どこまでが犬なのか、どこからが恐竜なのか、その境界を自分で見つけていっているのです。
子どもの言い間違いを聞いて「おかしなことを言って…」と思われることはありませんか。子どもの間違いは、自分が今持っている知識を総動員させて自分で考えている証です。言葉を覚え始めた赤ちゃんから幼児くらいの子どもを見かけたときには、その子が発する言葉に耳を傾けてみてください。きっと、私たち大人に「自分で学ぶ力」のすごさを教えてくれるはずです。
びんまる2021年7月号より
※最新の情報とは異なる場合があります。
ご了承ください。
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