三好教育長に聞く 福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第29回

テーマ 「子どもの学び」を考える(3)「わかる」に向けて

 「子どもの学び」についてシリーズでお伝えしています。前回は言葉と数について、子どもの「わからない」を取り上げました。今回は言葉と数の概念を子どもたちが理解していくために、学校・家庭でできることについて、三好教育長にお話していただきます。

—数って難しい

 大人は当たり前のように数を使っています。しかし、子どもの「わからない」を見ていくと、数はとても抽象的で難しいものだということがわかります。例えば「99・100・200」「108・109・200」と数えたり「10と10で100」「100が3こで103」と言ったりする子どももいます。数を学習し始めた子どもが、混乱することは自然なことです。このような子どもの混乱を見て「どうしてわからないのか」と思うのではなく「数って難しい」という気付きをもって、子どもに接していくことが大切だと思います。

—学びの仕組みを知る

子どもの頭の中で、どのような混乱が起きているのでしょうか。これまで学校ではスモールステップで、丁寧に教えて繰り返せばわかるということが常識のようにされてきました。それでは答えを出せてテストで正解しても、わかって「使える知識」には、なかなかなりません。これまでの取組を踏まえ、本年度は「わかる」に向けて「認知の仕組みから学習方法を見直す」ことを全市で取り組んでいます。認知科学の常識として「分かりやすく教えれば、教えられた内容が学び手の脳に移植されて定着するという考えは、幻想である」とされています。各学校の状況は様々ですが、子どもの反応や姿から教えて確かめることによる「わかる」の限界に気付き、授業が変わってきています。

—遊びながら学ぶ

 子どもたちが自分で数の感覚をつかんでいくためには、やはり遊びが一番です。ある学校で一年生がすごろくをしていました。最初は1つのさいころでしていたのですが、気付けば4つのさいころを使って、すごろくをしていました。1つではなかなか進めないからです。まだ繰り上がりのたし算は学習していませんが、4つの目を数え足してコマを進めていました。「4+5+2+6=?」と聞かれてもすぐに答えられないけれど、遊びの中ではどのように数えたのかはわかりませんが「17」と言っていました。
 分数や小数の理解も難しいです。ある調査で「1/2」と「1/3」どちらが大きいかを聞くと、5年生でも半分くらいの子は「1/3」が大きいと答えていました。ピザなど具体的なものを使って大きさ比べをすると、わかる子は増えます。算数の教科書もイラストが入り、具体的なイメージができるように工夫されています。しかし、具体ばかりで考えていると「1/2」とはどういうことなのか、なかなかその意味をつかむことができません。例えば図1を見て「小さいから1/2じゃない」と言う子がいます。図の大きさは関係ないのに、見た目の特徴に引きずられてしまいます。見た目では違っているものが抽象的な関係性で同じとされることに、数の難しさがあります。そこを解きほぐすためには「大きさは関係ないんだ」ということに子どもが気付くまで具体物、図、数直線など、いろいろなものを使って遊び感覚で「1/2」という数に触れていくことが必要だと思います。
小学校では子どもを椅子に座らせて、教科書・ノートを開いて、黒板を見て…という授業の流れを緩めてきています。就学前の遊びの中で体験的に学んできた延長戦上に、義務教育1年生の入口を置くようにしているところです。遊びは学び、学びは遊びです。そこへの理解が必要です。

—対話を通して学ぶ

子どもは生活の中で、見たり、聞いたり、話したりする中で間違いながらも自分で言葉の意味を考えています。砂場で遊んでいる4歳くらいの子が「土をこれ以上いれちゃあいけん!」「もうちょっとだけ入れていいよ」と言っていました。「これ以上」「だけ」というような言葉の使い方は、どのようにしてわかるようになったのかなと思います。おそらく、お家の人がお菓子などを「これ以上食べてはだめ」と言っているのを聞いて、自分で使い方を覚えたのだと思います。このように周りにいる人とたくさん対話することで、子どもは自分が持っている言葉を豊かにしていきます。
 例えば、買い物などは子どもが言葉と数の力を伸ばす材料があふれています。品物に書いてある言葉、数から会話をしてみてください。野菜の名前を読んでみたり、値段を言ってみたり。そうすると子どもは書いてある言葉や数に目を向けるようになります。漢字ドリルなどでなかなか覚えられない漢字でも、生活の中で自ら知り得た漢字は記憶に残ります。
言葉の中でも「前・後」「右・左」「一週間・一カ月」など、基本的な空間や時間の言葉がわからないのは、日常生活の中で十分に使わないからだと思います。幼児のときから時計やカレンダーを見ながら、出かける予定について話をしていくといいと思います。子どもが言葉と数に触れる機会が増え、抽象的な関係性をイメージできるようになってきます。

—認知のしくみから学習方法を見直す

子どものつまずきに気付いたとき「わかる」に向けて、大人がどのような役割をしていけばよいのでしょうか。
今井むつみ教授の慶應義塾大学での講義(「認知学習論」90分/全12回)を受講している学生が、様々な文献を読みディスカッションを重ねて、認知のしくみについて学んできました。最終課題である「小学校で読解力が足りない、数の概念が理解できない子どもにどのような支援を行えばよいか」について、学んだ学説やデータをもとに具体的な授業提案をまとめていました。昨年に続き、私の意見を話す機会をいただきましたので先日、学生とオンラインで対話をしました。印象的だったグループは、認知学習論での学びをベースに絵本と劇をつくっていました。劇の中で「焼きたてのパン」を「燃やしたてのパン」と言ったり「1円玉10枚をくくると1枚の10円玉になる」「(1円玉10枚と10円玉1枚が同じだなんて)なんか気持ち悪いなあ」というセリフがあったり、混乱している子どもの頭と心をリアルに表現していました。学生が言葉と数の難しさに気付いたから、出てきた一言だと思います。
どのグループも認知学習論で学んだ理論を踏まえた具体的な手立てが考えられていたので、市内の研修等で紹介したいと考えています。

1円玉を5枚で5円玉。
10枚で1枚の10円玉。
50枚で1枚の50円玉。
100枚で1枚の100円玉にして
数えやすくしたのよ。
つまり、「くくる」ってことね。

—8月2日(月)は、第18回「福山教育フォーラム」
 今回はオンラインで行います。各学校で取り組んでいる「認知のしくみから学習方法を見直す」ことをテーマとし、今井教授と為末大さん(※)にご登壇いただき、パネルディスカッションを行う予定です。この様子は次号で詳しくお伝えします。

※広島県出身。スプリント種目の世界大会で、日本人として初めてのメダルを獲得。シドニー・アテネ・北京オリンピックに連続出場。男子400mハードルの日本記録保持者。現在は、スポーツテクノロジーに関するプロジェクトを行う株式会社Deportare Partnersの代表。

 

びんまる2021年8月号より