三好教育長に聞く 福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第27回

学びの土台

—毎月「福山100NEN教育」の「今」について、三好教育長からお話を伺っています。今月号からシリーズで全ての取組の中心にある「子どもの学び」について、学びのベースとなる言葉と数の概念を子どもたちがどのように獲得していくのか、どんなところにつまずくのか、その具体をお話しいただきます。とくに就学前、小学校低学年のお子様がおられる保護者の方、必読です!

—あの頃 教室で元気がない子どもたち

今から4年前、毎年実施されている「全国学力・学習状況調査」(対象:小6・中3)の結果が、小学校は全国平均を超えていました。中学校は少し届きませんが、概ね全国平均となっていました。それまでの取組から、数字上の結果は見えていました。しかし教室で学んでいる子どもたちの姿をみると、元気がないし面白くなさそう。言われたことはやっているけれど、自分から何かをやろうとする意欲が見えない。これで本当にわかっているのだろうかという疑問を強くもちました。

—小学校1年生の学びを見る

小学校の学びの上に中学校の学びが積み上がっていきます。学びの土台となる小学校で「知りたい!」「やりたい!」「どうして?」といった子どもたちの興味・意欲・疑問などは、どうなっているのか。学力の基礎となる言葉と数の概念を、子どもがどのように獲得していっているのか。小学校に入学した後の子どもたちの学びが、どうなっているのかをはっきりさせたいと考えました。
「低所得層の子どもは高所得層の子どもに比べ、2歳の時点で言語発達が6カ月遅れる。」「2歳時点での言語能力が6年後の言語能力と相関する。放置すればさらに学力差を生む。」という海外の研究報告があります。「親の年収が高いほど子どもの学力が高い傾向が見られる。」ということは文科省の調査からも示されています。それが今の時点での事実であったとしても、義務教育9年間でなんとしてでもその差をうめていきたいと考えました。
そこで2017年(平成25年)、学力の基礎となる言葉と数を理解・獲得する過程を明らかにする調査研究を始めました。南小学校と光小学校に指導主事が一人ずつ入り、1年生2クラスずつ、計4クラスの子どもたちの学びを入学時からずっと追いかけていきました。毎日、国語と算数の授業を動画に撮り、子どもの発言、姿を記録し続けました。定期的に調査も行い、子どもたちがどこでつまずき、どこでわかっていっているのかを分析しました。ただひたすらに「子どもがどう学んでいるか」この一点を見つめていったのです。

—明らかになった「子どもが学ぶ過程」算数と国語の授業でのエピソードを紹介します。
【算数】「いくつといくつ」という10までの数の合成・分解を学習する場面です。カードを使った遊びの中で、友だちと一緒に数を数えて、「これかな?」「だめだ」ということを何度も繰り返しながら、数の感覚をつかんでいます。
授業で数のカードを使った遊びの面白さを実感した子どもたちは、休憩時間も自分たちでルールをつくり、遊んでいました。はじめは数を1つずつ数えて考えていた子どもも、何度も数に触れることで見ただけで数がわかるようになっていきます。友だちとのカード遊びを通して、数の合成・分解の理解を確かなものにしていきました。

【国語】「じどう車くらべ」という説明文の授業で、クレーン車の仕事について話し合っている場面です。(:教師 :子ども)
:「つり上げる」ってどういうこと?
:魚つりといっしょ。
:魚つりの「つり」と同じで、魚つりには糸みたいなものがある。クレーン車もそれで「つり上げる」。
:魚つりしたことある人? (半分くらいの子が手を挙げる。)
:ザリガニつりならあるよ。
:海に行ってつったことがある。本物を。(思い思いに「つり」の経験についてつぶやく)

:魚つりの「つり」といっしょなんだね。じゃあ、クレーン車も魚を「つり上げる」の?
:クレーン車は魚じゃなくて、重い荷物を「つり上げる」。(叙述にもどる)
:魚つりといっしょじゃなくて、魚つりと似てるってこと。
:「かたむく」ってどういうこと?
:「たおれる」っていう意味。(そうかなあと首をかしげる子が数人)
:ぼくがやってみてあげる。こうやってななめになること。(体で表現)
:ぼくもやってあげます。体を使ってできますよ。
:「かたむく」ってこうなることよ。(教科書をななめにもつ)
:人だって、けんけんするとき、「かたむく」よ。(経験から)

この1年生の子どもたちの姿に、学びの原点を見た思いがしました。子どもたちは、自分の経験や知っていることを友だちや先生に伝えたくてたまりません。この気持ちは高学年の児童も中学生も、我々大人だって同じだと思います。そして友だちの発言を聴きながら、自分の経験と重ねて「つり上げる」「かたむく」という言葉のイメージが子どもの中で膨らんでいきます。「『かたむく』ってこういうことか」と新たに言葉を発見する子もいれば、「ここまでが『かたむく』なのか」と、言葉の意味を修正する子もいます。このようにして、子どもの言葉の意味は絶えず進化と深化を続けていきます。
この授業の後、子どもたちは教室から出て実際に車を見に行きます。トラックを見ればタイヤの数を数え始め、道路を歩けば落ち葉を拾い集める。数を数えると多い少ないを知るために、いつの間にかたし算やひき算を始めるわけです。子どもたちが会話を始めると国語の学びから得た言葉があふれ、それが算数になり、生活科になり、社会になり…教科の学びが縦にも横にもつながります。この教科での学びが生活の中で活かされ、また生活の中での学びが教科につながっていくと、子どもたちの学びはどんどん深まっていきます。
子どもが学ぶ過程を見続ける中でわかったことは、
◇ 一人一人、「わかる・理解する」過程や方法、スピードが様々であること。
◇ 教師や教科書の説明でわかることもあれば、自分で考え、試しながらわかっていくこともあること。
◇ 授業ではわからなかったことが、休憩時間の遊びや他の授業での学びとつながり、わかるようになること。
◇ 子ども同士、体を使って表現し合うことで言葉の意味を理解していくこと。
◇ 子どもたちは「対話」を通して、自分で学んでいくこと。
◇ 子どもたちの疑問は教科・学年を超えて、経験とつながり、思考を広げ、深めていくこと。 
認知科学の研究者である慶應義塾大学の今井教授は、子どもの母語学習の研究から「人はだれもが『自分で学ぶ力』をもっている」と言われています。そのことが1年生の学ぶ姿から、実感をもってわかりました。
子どもの学ぶ過程が見えてきた一方で、子どもたちの「わからない」もたくさん見えてきました。大人は自然に身に付いたように思っている言葉と数の概念。この理解はかなり難しいものだということを、子どもたちの学びから気付くことができます。

—よくある子どもの思い込み

☆ まるには「はし」はない。しかくには、「はし」がある。
☆ 公園に行ったのは、3日前じゃない。3日うしろだよ。
☆ 10と10で「100」
☆ 1ずつ数えて、107・108・109・「200」
☆ 10ずつ数えていくと、10・20・30…80・90・100・「200」・「300」
☆ 34円を出してと言うと17円を出す。56円は21円に、30円は13円になる。

どうしてこのような答えが出てくるのだと思いますか。子どもの頭の中では、どんなことが起きているのでしょうか。かつて、私たちの頭の中でも起きていたことかもしれません。このことについては来月号でお話します。もしよければ、皆さんも子どもの頃を思い出しながら考えてみてください。

びんまる2021年6月号より