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三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第24回

三好教育長に聞く 福山100NEN教育

学校給食から考える

1月末に、市役所本庁舎や各支所で学校給食パネル展が開催されました。各学校の給食の様子、食育の取組、福山レシピ賞などが紹介されました。ご覧になられたでしょうか。今回は、学校給食について、三好教育長からお話を伺います。

—学校給食の人気メニューやおいしそうに食べている子どもたちの写真がたくさん展示されていました。今では、中学校でも給食が実施されているのですね。

教育長:社会環境の変化から、中学校での完全給食の実施率は、年々増えています。福山市では、2015年度、全校実施に向け検討を行い、翌年から順次開始し、昨年8月に全ての学校で給食を始めました。

—お弁当から給食に変わり、子どもたちや保護者の方からどんな声が届いていますか。

教育長:「豊富なメニューでバランスのよい食事ができる」「温かくておいしい」と喜んでいただいている声が多いです。小学校の頃を思い出すのか、「懐かしい」という声もあります。また、「お弁当がいいな」という声もあります。
食べること一つとっても、それまでの生活環境によって、一人一人違います。どんなものでもすぐ食べる子もいれば、食べられないものがあり、時間がかかる子もいます。小学校入学前のお子さんが、苦手な食べ物が多い場合、給食を時間内に全部食べられるかどうか不安に思われている保護者の方も多いのではないかと思います。

—苦手なものが給食に出て、子どもが食べられない場合、学校ではどのようにされているのですか。

教育長:そのことについて、先日の初任者研修での一コマをお話します。昨年に続き、10グループすべての議論に入り、先生たちと対話しました。小学校教諭と栄養教諭がいたグループでは、ちょうど給食のことについて話していました。

 

教諭A:給食の残菜が多くて、申し訳ないなと思いながら毎日過ごしています。皆さんの学級は、どうですか。
栄養教諭:少ししか食べない子は決まっているので、その子の分は少なくして、残りを他の子で分けています。
教諭B:「外国では、食べられない子もいるよね」「お父さん、お母さんが働いてくれているおかげで食べられているんだよ」という話をしたら、結構食べましたよ。
教諭C:フードロスの動画を見ました。おにぎりが捨てられている映像もあって、「自分たちが食べられる分は食べようね」という話をしたら、食べるようになりました。豆腐が苦手すぎて泣いた子がいて、さすがにその子には「いいよ」と言いました。
栄養教諭:子どもが「苦手だ」と言ってきたときに、「いいよ」と言ってすぐ残すのは、私は嫌です。食べ物を作った人に感謝の気持ちを込めるのであれば、「何か頑張ったけれど残す」ということが大事だと思っています。だから、子どもが「食べられない」と言ってきたら、「何を頑張ったの」と聞いています。例えば、「においを嗅ぐ」「ちょっとなめてみる」とか、そういう小さいステップでいいから、何かを頑張ったけど、無理だったという残し方ならいいと思います。
教諭D:「子どもの頃は舌が敏感だから、苦手なものが多い」ということを聞いたことがあります。一口でも食べてみて、慣れてくれば嫌いなものでも食べられるようになるかなと思っています。
教諭A:ぼくは、小学校のとき嫌いなものがいっぱいあって、昼休憩の間ずっと、お地蔵さんのように座っているような子でした。野菜が全部だめで、昆布とかの海藻類も。食わず嫌いもあって、見た目でいらないと思っていました。今は、ナスも昆布も好きだし、大人になったら食べられるようになるんだろうなと思う部分はあります。
教諭E:ぼくも子どものときすごく苦手なものが多くて、家でもよく残していました。「外国では、食べられない子がいる」という話が出たけれど、お母さんから「貧しい子は食べられないんよ。外国では…」という話を散々聞かされていました。でも、自分からしたら、外国の子なんてわからんし、見たこともないし、会ったこともないし、またそれかとずっと思っていました。でも、小学校3年生のときに、担任の先生が教室に『はだしのゲン』の漫画を全巻置いてくれていて、漫画だし、興味津々で読んでいたら、そこでゲンが食べているご飯が、すごくおいしそうに見えたんです。それまで、白ご飯が嫌いだったんですよ。味もしないし、おかずがないと嫌だったんですけど、『はだしのゲン』を読んでからは、白ご飯だけでおいしいと思えるようになったんです。そこでやっと自分が、食べられない時代、食べられない子どもと、ガチッとはまったのかなと今では思っています。
教諭F:苦手なものでも、きっかけがあれば、食べられるようになると思います。ぼくも子どもの頃、トマトが嫌いだったんですけど、社会見学でトマト農家へ行って、自分で取ったトマトを食べたときに食べられて、それ以降はトマトを食べられるようになりました。なんかきっかけって大きいですよね。
教諭G:私は、好き嫌いが給食のおかげで減りました。子どもの頃は好き嫌いが多くて、小食だったので、自分の体の大きさに対して、あの給食の量は食べても食べても永遠に終わらない量に感じていました。昼休みも食べ続けて、掃除時間の5分前くらいまで頑張らないと給食室に持って行けないということがあって、給食の時間は永遠に終わらない時間に感じていました。でも、他の時間が楽しかったので、給食の時間を耐えられればいいと思っていました。だから、食べれない子の気持ちはすごくわかります。うちのクラスにも、苦手なものがあるとじっと固まる子がいます。全然手をつけていないご飯があったら、「ニンジンはいつも食べられているから、汁の中にあるニンジンだけは食べたら」と言っています。
教諭H:昔の話ですけど、今でも給食に出てくるんですが、袋に入ったプルーンが嫌いすぎて、ポケットの中に入れて持って帰っていました。これ一個食べたくらいで、ドラゴンボールの仙豆(一粒食べると元気が出る豆)じゃないんだから、そんなすぐ元気になるわけないのに、なんでこれを絶対食べないといけないのかって、ずっと思っていました。
教諭I:プルーン一個食べなかったからといって、死ぬわけではないですよね。子どもの中で、「なんで食べないといけんの?」「なんで勉強しないといけんの?」という「なんで?」の部分が落ちていないから、がんばろうと思えないところがあるんじゃないかな。
教諭H:それは、教え込もうとしても入らないと思います。
教諭A:自分が育てたことで食べられるようになった子、漫画を読んで食べられるようになった子、動画を見て食べられるようになった子…子どもによってさまざまだし、どうアプローチしていくのがいいのかな…。

 

—家庭でも子どもの好き嫌いに悩まされている方は多と思いますが、学校でも、先生方が悩みながら子どもに関わっていることがよくわかりました。

教育長:このグループでは、子どもが感じていることを大事にしながら、給食の時間にどう関わっていくのかを考えていました。議論の中で、先生の子どもの頃の経験がどんどん出てきて、その中にたくさんのヒントがあることに気付かれていました。
食べることが楽しい人もいれば、食べることに興味がない人もいます。学校では給食も学習も、ここまではみんな同じようにと、ルールを決めていることがさまざまにあります。「いいよ、いいよ」と、頑張らないことを安易に認めるわけではありませんが、「ねばならない」「すべきだ」が強すぎるとしんどいですよね。ある子にとってはなんでもないことでも、ある子にとってはしんどいこともあります。「もっと、もっと」とやらせれば耐える力が付くかもしれませんが、耐える前に折れてしまうこともあります。子どもの状況を見ながら、その子に応じた関わりをしていくことは、給食にしても、他のことにしても必要なことだと思います。

—給食一つとっても、子どもの状況を見ながら、その時々でどうするのかを見つけていくことが大切ですね。

教育長:そうですね。給食の話は、すべてにつながると思います。大人が正しいと思ったことを一生懸命伝えることも大切だとは思いますが、なかなか入らないですよね。私たち大人が、(関わらないことも含め)どう関わると、子どもの中の「やってみたい」が動き出すのか。そこをしっかり見て、考えていきたいですね。

びんまる2021年3月号より

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