• 三好教育長に聞く福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第21回

三好教育長に聞く 福山100NEN教育

パンゲア森理事長との対談〜「学びが面白い!」とは・・・〜

「学びが面白い!」の深化に向けて、NPO法人「パンゲア」の森由美子理事長(※)から、さまざまな助言をいただいています。今回は、森理事長と三好教育長との対談の様子を紹介します。

森由美子理事長

玩具メーカーの(株)タカラトミーに入社。幼児玩具開発事業室室長を務め、国内外の玩具賞を受賞。2003年のNPO法人パンゲア設立当初から理事長を務める。
2004年には文部科学省初等中等教育局 国際理解・教育諮問委員会諮問委員。
2005年日経ウーマンオブザイヤー2006(キャリアクリエイト部門)受賞。
2006年より文部科学省国際教育推進プラン・三重県国際教育推進地域連絡協議会委員を務める。
2019年地球市民賞受賞。2020年広島県教育委員会から委託を受け、文科省プロジェクト(WWL※)にコーディネータとして参加。※高校生が、世界で活躍する人材になることを目的にしたプロジェクト。

森理事長:パンゲアは、世界の子どもたちが出会い、伝え合い、つながることのできる遊び場を運営している特定非営利活動法人です。これまでに日本(東京、京都、千葉、三重)、韓国、オーストリア、ケニア、ジョージア、カンボジア、マレーシアで活動し、パンゲアアクティビティに、延べ一万人の子どもたちが参加しています。子どもたちは、アニメーション、写真、絵、音などの作品を作り、それをパンゲアネットと呼ばれる安全なネット環境の中で共有し、絵文字を使って作品へコメントしたり、違う国の子にメッセージを送ったりします。これは、時差のある国同士であっても有効です。年に数回、離れた拠点同士をウェブカメラでつなぎ、パンゲアが企画・開発したゲームをすることもあります。

教育長:先日、京都大学で行われたアクティビティに参加させていただきました。広島の子が、折り鶴の折り方を紹介し、会場にいる子どもたちと、ケニアの子どもが、一緒に折っていました。パッと見ただけではわからなかったのですが、子どもたちの自然な活動を見ていると、ソーシャルディスタンスを意識した座席の配置、使いたいときに使えるパソコンなどが、さり気なく準備されてあり、子どもが、自分たちで活動できる場になっているなと感じました。

森理事長:クリエイティブな活動を引き出すような場をつくることをいつも心掛けています。玩具の仕事をしていた関係で、「物・スペース・人間関係」の3つのバランスが良いと、子どもたちが健やかに育つと思っています。教育の場でも、子どもたちが、いろんな物を使って考えられるような素材を置き、ガイドしていくことは大切です。

教育長:子どもたちが、自分たちで学べる環境をつくるということですね。森さんは、幼児玩具の開発だけでなく、アメリカでモンテッソーリ教育をされておられるので、教具についてもかなり研究されていますよね。

森理事長:教具があれば、1〜3年生の算数は、かなりの部分が解決できます。数は「1、2、3、…9、10、11、12…」と続けて学ぶと、概念が捉えにくいです。桁が変わることが難しいのです。数の概念は、「1〜9」まで学んだ後、「1、10、100、1000…」と学び、「11」は「10と1」と捉えていくといいです。モンテッソーリの教具には、そのことを子どもが感覚的に理解できるようなものがあります。数のような抽象的なことを無理やり教えようとすると、子どもはわからなくなります。子どもが自分で教具を使いながら体感することが、数の概念の理解につながっていきます。また、同じものを組み合わせたり、違うものと分けたりする教具もあります。教具を使って組み合わせたり、並べたりする遊びは、情報処理の力につながります。教室に教具を入れることで、子どもたちが自分で楽しく学んでいくことができますよ。

教育長:これまで学校では、子どもがどう学んでいくかということより、先生がどう教えるかということが中心になっていました。授業に向けての教材研究も、教えるための準備になっていて、子どもがそこから学び始めるという場づくりは十分でなかったかもしれません。

森理事長:先生が、今までと同じ感覚で準備していてはだめですよ。スタンスが「先生」である限り、難しいです。まず、大人と子どものスタンスを変えること。先生の意識を変えることです。

教育長:子どもを子ども扱いしないということですよね。子どもって、本当にすごいです。子どもから学ぶことがたくさんあります。「子ども」という言い方もどうかと思います。「ファシリテーター」という言葉がどんどん使われていますが、先生は「教える」「させる」ということからまだまだ抜け出せていません。

森理事長:先生をされている人の方が、ファシリテーターになるのは大変です。先生は、子どもがいたら何かをしないといけないと思って、余計なことを言ったりします。教える癖がついているのです。パンゲアのファシリテーターは、ゆったり子どもを見ています。絵を描くときも、「こうしなさい」とは言わず、子どものそばで、一緒に絵を描いています。だから、子どもが近づいていくんですよね。

教育長:図工の授業でも、みんな同じ絵になっています。目の描き方が黒板に描いてあって、それと同じ目をみんな描いているんです。画用紙の使い方も同じ。同じような絵が教室にずらっと並んでいます。

森理事長:パンゲアで、コップの絵を描いたとき、日本の子はみんな横から見たコップの絵を描いていました。海外の子は、真上から見たコップの絵を描く子もいます。いろんな人、いろんな角度から見ると、物事って、違って見えるということがよくわかります。クリエイティブでない人が、子どもの絵を見て「ここを変えなさい」とか、いろいろ言ってはいけないと思います。子どもが持っているすごくいいものを壊している可能性もあります。子どもは、描いたり、作ったりしているときが一番興奮しています。終わったものは、どうでもいいのです。むしろ、先生や親が、できたものに妙にこだわるんです。だれかの評価を受けることばかり気にしていると、自分が何をしたいのかということから外れてしまいます。

教育長:考えながら作っているときが、面白いんですよね。授業では、その過程も大切にしているけれど、できたものをみんなに説明することに力を入れています。子どもが説明するときには、こんな工夫をしてできたという感動は、終わっています。だから、聞く方も2人、3人と発表が続くと、聞くのが面倒くさくなってくる。わいわい話し合って、一番熱があるところで、「やめてください。発表してください」と言われて発表しても、そこの面白さが伝わってこないんですよね。

森理事長:ファシリテーターの役割としては、周りながら、子どもたちの中で起きていることに気付き、「〇〇さん、さっきこんなこと言ってたよね?」と聞いてみることです。

教育長:そこなんですよね。今、やろうとしていることは。子どもがやっていることを見て、ここぞという場面を取り上げて紹介する。そうすると、グッと興味や疑問が大きくなります。このことがわかって、気付いて、取り上げることが、ファシリテーターの役割ですよね。そうすると、子どもたちの学びが深化していくのだと思います。

森理事長:子どもたちの学びを掘り下げていくと、面白いことが出てきますよ。この間、ある小学校のHPを見ると、税務署の人から税金について学んだことが載っていました。「税金を払うのは大切だ」などと書いてあったけれど、税務署からの話を聴いただけで終わってしまうのは…。税金がどんなふうに使われていくか、どうやって決められていくのかということまで掘り下げてほしいです。

教育長:納税の義務だけだと、知識ばかりになってしまいます。税が、どういう仕組みになっているのか。そもそもの仕組みですよね。ここに面白さがあります。

森理事長:お店屋さんごっこをしながら、出てくる課題に対して、どうしようかと考えることもいいですね。「全然儲からない」「水がない!」「モーターを買わないと!」とか。

教育長:昔のように井戸や山からの水を生活用水に使っているのではなく、水は水道をひねれば出てきます。水がどうやって出てくるのか。その見えにくくなっているところを突いていくと面白くなっていく。

森理事長:ローマの水路や疎水とか。昔の人も考えていたというところは、子どももわかります。先生が何から何まで知っておく必要はありません。子どもに「昔の人はどうやっていたんだろう?」と問いかけると、子どもは調べていきます。「なんて書いてあった?」と問うと、「こんなんが載ってる!」「どっちだろうか?」と、議論になります。そういう議論の中で出たことは忘れません。

教育長:そうですよね。知識は、覚えようと思って暗記するものではなく、「ああでもない、こうでもない」と考え対話する中で、友だちがもっている知識、経験に触れ、自分がもっている知識とつながって、「そういうことか!」と自分の中に残っていきます。
結局、「学びが面白い!」ということは、そういうことなんですよね。

びんまる2020年12月号より

PAGE TOP