三好教育長に聞く 福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第22回

すべては子どもたちのために・子どもたちとともに

—コロナウイルスの感染状況は、収束することなく、さらに厳しい状況が続いています。
 2020年は、今まで経験したことのない激動の1年となりました。この1年を振り返って、いかがですか。

教育長:昨年は3月から一斉休業となり、4月に開校できたかと思えば、一週間ほどで再び5月末まで休業となりました。2020年、「福山100NEN教育」5年目のテーマは、「踏み出す」。休業中には、全ての教職員に、「使えるものは何でも使う・できることからできる人から・既存のルールにとらわれず臨機応変・何でもやってみる」と伝えました。各学校では、これまで通りができない日常の中で、まさに答えがない問いに対して、さまざまにチャレンジした1年だったと思います。私たち大人の課題解決力が問われた年でした。

—臨時休業中も、子どもたちの学びを繋ぐために、各学校でさまざまな取組がなされていましたよね。

教育長:各学校は「何でもやってみる」という意識で、子どもの状況把握や家庭学習の支援に努めました。子どもたちへ届く愛情あふれる教職員の取組に、感動さえ覚えました。再開後も、教科の内容を焦点化したり、子どもたちが主体となって、学校行事の実施時期や内容を見直したりしました。具体的には、子どもたちが旅行会社と交渉して修学旅行を企画したり、密にならない体育大会の競技を考え、「ミニオリンピック」を実施したりしています。このような子どもたちの姿から、改めて「子どもは、主体的に学ぶ」という思いを強くし、日々の授業をはじめとした教育活動を見直している教職員が増えています。

—「お互いの命を守る新たなルール」も各学校で考えられていました。

教育長:2017年(平成29年)から全ての学校で、生徒指導規程の見直しに取り組んできました。更に、今までの学校のきまりを「ゼロ」ベースで、子どもたちと一緒につくっていくことを求めました。その中で、制服や頭髪の男女別をなくしたり、制服、私服を選択できるようにしている学校もあります。そのことによって、女子児童生徒が半ズボンやスラックスで学校生活を送ったり、気温に応じて、各自の判断で防寒着を着て登校したりしています。

—学校の当たり前が見直されて、保護者の方からはどのような声が届いていますか。

教育長:「子どもの頃から、それぞれの違いを実感できていいと思う」「子どもたちが多様な価値観や考え方を学べる」「私も子どもの頃にそのように学びたかった」などの声を聞いています。
先日、地域の合同研修会でお話をさせていただきました。参加者からたくさんご意見・ご質問をいただいた中の一つに、次のような保護者の声がありました。
「私は、今年初めて『女性代表』という役になりました。PTAに関わるようになって、『女性代表』という名前がなんであるのか、よくわからないまま過ごしてきました。いざ自分が『女性代表』という役になった時、とても違和感があったので、PTAの役員会でお願いして『本部補佐』という名前に会則を変えていただきました。『女性代表』があるのなら、『男性代表』があってもいいと思います。『母親代表』があるのなら、『父親代表』があってもいいと思うし、そんなものはなくてもいいのかなとも思います。それをどうやったら変えられるのかわかりません。今まで女性代表をされてきた方がどう思われたのか、わかりませんが、発言させていただきました」と。

—どのように応えられたのですか。

教育長:「とても大切なことだと思います。『男性代表』『父親代表』はないんですよ。例えば、『退職校長会』というものがあります。『退職女性校長会』はあるけれど、『退職男性校長会』はありません。男社会がベースになっているから、女性だけ取り出した名前や組織がたくさんあります。そういうところをどうやって変えていけるか。こういうものなんだということで納得、あきらめていては、何も変わりません。この保護者の方のように、『なぜ?』と聞いて、おかしいなと思うことから一つ一つ声に出していかないと、変わらないのだと思います。
例えば、フィンランドでは30代の女性が首相で、大臣も女性が多いです。日本では、内閣、閣僚は男性がほとんどです。女性管理職の割合を上げようとしても、なかなか上がりません。
ふだん無意識に使っている言葉が、自分の意識をつくっていることがあると感じています。
どのくらい前からか、『子ども』という言葉もどうなのかと思っています。一人の人間として見たときに、どう呼ぶことがいいのか…」こんな話をしました。

—「『子ども』という言い方もどうかと思う」ということは、今年初めのインタビューでも、前回の森理事長との対談の中でも言われていました。三好教育長が、ずっと思っておられることですよね。

教育長:そうですね。「子どもって本当にすごいな」ということは、言うまでもありません。発想やアイディア、目のつけどころには、びっくりします。それを「子ども」と言う時の自分は、どの位置に立っているのかと思うのです。
教育長室に「すべては子どもたちのために」という書を掲げています。今の役割をいただいた2014年9月、議会の教育長としての所信を「すべては子どもたちのために、全力を尽くします」という言葉で締めくくりました。それを聞いてくださった地元の書道家の方から、寄贈していただいたものです。この言葉を真っ直ぐ見られる自分でありたいといつも思うし、どこに立っているのか、どこに向いているのか、常に私の役割を一文字一文字から問われていると思っています。原点です。
「すべては子どもたちのために」という言葉に全てを込めました。しかし、この言葉を発するときの自分の位置がどこにあるのか。そう考えると、子どもと大人、子どもと先生、上からの位置だと思います。そんなときに、台湾のデジタル担当大臣オードリー・タンさんの言葉「すべては市民とともに」を聞き、これだ!と思いました。
「すべては子どもたちのために・子どもたちとともに」ですね。

—当たり前のように、「子ども」という言葉を使っていました。確かに、「子どもは…」という言葉を使うとき、自分は「大人」という上からの位置で話をしているなと思います。

教育長:言葉は、知らず知らずのうちに、自分の意識や考え方をつくり、自分の行動を決めてしまっています。そういう一つ一つの言葉に「おかしいのではないか」「変えていきましょう」ということが、身の回りで起こってくることが、子どもたちの価値を広げていくことになると思います。答えは自分たちでつくっていく。おかしかったら変えられるんだということを、小さい頃から身に付けていくことはとても大事だと思います。
改めて、自分が使っている言葉の一つ一つを問い直しています。

—「福山100NEN教育」も今年で6年目を迎えます。どのような1年になるでしょうか。

教育長:コロナ禍において、感染防止の徹底を図りながら、一層、子どもが自分らしく学びに集中できるよう、取組を進めていきます。
1月から一人一台端末を児童生徒、教職員全員に順次配付し、3月末までに通信環境を整えます。4月からは、子どもたちが学校・家庭・校外など、いつでもどこでも端末が使える環境が整います。
端末を使うことによって、自分のペースで学ぶことが可能になります。しかし、それだけで、子どもが学び始め、どんどん理解していくかと言えば、なかなかそうはなりません。今、進めている子どもたちが対話的に学ぶことや、体験的に学ぶことを組み合わせながら、端末をどのように学びに活かしていくかということが大切です。今年も「子ども主体の学び〜学びが面白い!〜」の深化に向けて取り組んでいきます。
2021年も子どもとともに、教職員とともに、そして皆さんとともに、未来に向かって、ぐんぐん伸びていく1年にしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

びんまる2021年1月号より