• 三好教育長に聞く福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第10回

三好教育長に聞く 福山100NEN教育

「福山100NEN教育」5年目を迎えて

—2019年を振り返って、どのような1年でしたか?

教育長:やはり、一番に思い起こされるのは、全ての学校で、授業を通して子どもたちの姿を見てきたことですね。その中で、子どもたちが自分で考えて、面白がって学んでいる姿が、多くの学校で見え始めた1年でした。

─特に印象に残っている授業がありますか?

教育長:新市中央中学校で見た授業です。どのクラスに行っても、自分の言葉でしっかり発言していたり、笑い声が聞こえたり、わき目も振らず書いていたりと、子どもたちの学ぶ意欲が満ち溢れていました。

 その中で、3年生の社会科公民の授業では、「だれを市長に選ぶか」を、教科書にある立候補者4人の公約等の資料から考え、議論していました。「どうして福祉センターが必要なのか」「ゴミ処理場を新しくする効果は?」など、互いに質問し合い、自分なりの根拠をもって意見を言うと、「なるほど」「ほぉー」という声が起こっていました。「狭い公園でも、子どもなりに楽しかった」などの、自分の小さい頃の経験を交えた意見には、多くの生徒が、うなずきながら聞き入っていました。

 生徒同士が反応し合って授業が進んでいく中で、先生が入るタイミングと言葉(質問や説明)が絶妙でした。生徒の中にある経験や「知りたい」「もっと言いたい」という思いが刺激され、先生は何も教えていないのに、教えていないからこそ、生徒たちが学びをどんどん深め、広げていきました。改めて、「子どもはすごい!」そして「先生もすごい!」と感動で涙が出ました(本当です)。

─小学校はいかがですか?

教育長:子どもがとっても元気です。学ぶ面白さをどんどん身体で表現し始めている子が増えていると感じました。

 川口小学校では、学校全体が、子どもたちが安心して生活できる場所になっていて、教室だけでなく、廊下や階段など、全ての場所が、居場所になっていると感じました。子どもは教室にもいるし、しんどくなったら、教室以外の場所にいることもできる。だから、それまでなかなか登校できなかった子も、学校に来ることができるようになっていました。どの教室も、子どもたちの自分らしい自然な姿があったように思います。

 また、伊勢丘小学校では、5年生の女子児童が「なぜ学校でシャープペンシルが使えないのか」と、これまでの当たり前に疑問を持ち、自分で調べたことや考えたことを基に、学校のきまりを見直すレポートを作成して、校長先生のところへ持っていくということがありました。

 実際にレポートを見ると、シャーペンが使えない理由を調べたり、鉛筆と比較したりしながら、自分なりの根拠をもって説明し、シャーペンを持ってくる場合のルールを考えていました。このレポートをすごいと思った校長先生と生徒指導主事が学校全体に紹介され、シャーペンの使用について考える取組が、更に広がっていきました。

 日々の授業の中で大切にしている「自分で判断し、決めること」が、子どもたちの主体的な行動につながってきています。

─子どもたちや先生方の姿に、教育長ご自身が感動や元気をもらった1年だったのですね。

教育長:はい。毎年そうなのですが、昨年は特に、子どもたちの学びが大きく変わってきていることを実感する1年でした。

─イエナプラン教育校や校内フリースクールの取組など、新聞やテレビ番組でも、福山市の取組が取り上げられた1年でもあったと思うのですが、いかがですか?

教育長:そうですね。県内外を問わず、たくさんの方々が学校の視察に来られたり、「話を聞きたい」と教育長室に来られたりしました。教育関係者の方だけでなく、企業の代表の方など、私が知らない世界で活躍していらっしゃる方にもたくさんお会いしました。

 先制パンチのように、「私がやっているのは『学び』だけです。教室での子どもを元気にしたいだけなんです」と話す(熱が入ります)と、みなさん共感してくださり、話が尽きませんでした。そして、さまざまな支援をいただき、子どもたちに返しているつもりです。

─8月には、福山市の学力向上アドバイザーが就任されたことも新聞で見ました。

教育長:文部科学省専門官の大根田頼尚さんですね。大根田さんとの出会いは、3年前になるんです。当時、文科省から埼玉県教育委員会に出向されており、子ども一人一人の学力の伸びを見ていく新しい学力調査の設計・実施・普及に携わっていらっしゃいました。

 平均点と比べたり順位で評価したりするのではなく、1年前の自分からどれくらい伸びたかを見ることができる調査で、一人一人の学びを大切にする本市の取組と、ぴったり合ったんです。次の年から、2つの中学校区で、モデル的に実施することに決めました。

 実施2年目の昨年、学力向上アドバイザーに就任していただき、学力や学習意欲などの伸びの見方について、2中学校区の教職員や指導主事を対象に研修をしていただいています。改めて、周りとの比較ではなく、自分自身がどれだけ成長したかを見ることが本来の教育の姿であることを実感しています。

─たくさんの方との出会いが、福山市の取組のエンジンになっているんですね。
さて、新年がはじまりました。この1月で、福山100NEN教育は5年目を迎えられると聞いています。学校では、年度末のまとめの時期でもありますが、どのような1年になるでしょうか。

教育長:就任以来、子どもたちが「自ら考え学ぶ授業」を柱に、本来、すべての子どもたちがもっているやりたい・知りたいという思いを素直に表現できるよう、学校の価値観や私たち大人の固定概念等を問い直しながら「子ども主体の学びづくり」に取り組んできました。その中心にあるものは、「子どもはすごい!」という子どもへの尊敬のまなざしです。

 私たち大人が「子どもは未熟だから、教えなければいけない」という考えから脱却し、一人の人間として見ることです。

 今年も引き続き、子ども一人一人の学ぶ過程を大切にし、すべての子どもたちが「面白い」と実感する「子ども主体の学び」に全教室で取り組んでいきます。

「すべては子どもたちのために」 本年も、皆様の御理解、御協力をよろしくお願いします。

びんまる2020年1月号より

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