• 三好教育長に聞く福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第9回

三好教育長に聞く 福山100NEN教育

本物の芸術文化に触れる

—福山市では、子どもたちが本物の芸術文化に触れる機会をつくられていると聞いています。具体的には、どのような機会なのですか。

教育長:感性豊かな子どもたちに、是非とも本物の芸術文化に触れる機会を設けたいと、市長から二つのプレゼントをしていただいており、今年で2年目となります。

 一つは、10月に開催された「ばらのまち福山国際音楽祭〜未来につなぐ子どもたちへのコンサート〜」です。市内の小学校5年生全員(約4200人)を招待しました。

 福山市出身の世界的な音響設計家 豊田泰久さんが設計されたリーデンローズの大ホールで、子どもたちは、ジュール・フィルハーモニー管弦楽団による「威風堂々(エルガー)」「ラプソディ・イン・ブルー(ガーシュイン)」などの演奏を聴きました。世界的なオーケストラの生演奏を聴き、「音楽がずんずんと体に響いてきて、ものすごい迫力に感動した」「いろいろな楽器の音を一つにまとめる指揮者の人がすごいと思った」など、舞台上の演奏者と一体となり、音楽をつくりあげるエネルギーや魅力にひき込まれています。

 もう一つは、「10歳の君へ ようこそ美術館プロジェクト」です。市内の小学校4年生全員(約4200人)をふくやま美術館へ招待し、岸田劉生、梅原龍三郎、ピカソ、シャガールなど、所蔵の作品を鑑賞しています。

 子どもたちは、作品を観て、学芸員からの質問に答えたり、感想を伝え合ったりするなど、対話をしながら鑑賞します。作品について教わるだけでなく、みんなで一緒に一つの作品について話をしていくことで、「自分で思ったことと、みんなが思ったことを一緒に組み合わせて観ることができるから楽しい」「友だちの感想を聴いて絵を見ると、新しい発見ができる」など、作品の見方・感じ方を広げたり、深めたりしています。

 11月末現在、77校中54校の子どもたちを招待しており、鑑賞後のアンケートでは、「作品のよさや面白さを感じた」と答えた子どもが97%、「また美術館に行ってみたい」と答えた子どもが93%と、美術館や作品に関心を深めています。

 日常の中で本物の芸術文化に触れる体験により、子どもたちの豊かな感性や創造力が育まれ、一人一人の可能性を開花させる機会となっていると考えています。

─教育長室前の廊下には、子どもたちの作品がたくさん展示されていますね。

教育長:今から4年前に「えがお・おうえんギャラリー」として開設したスペースです。市内の子どもたちの作品を展示し、教育長室を訪れる多くの方々に観ていただくことで、子どもたちの創造力の素晴らしさや頑張りを感じていただきたいと思っています。

 展示している作品は、絵画、立体、習字、詩などさまざまで、どの作品にも、子どもたちの個性が活き活きと表現されています。学校から作品を募集したり、学校を訪問して「素敵だな」と感じた作品をお借りしたりして、毎月20日にギャラリーの展示作品を入れ替えています。今月は、市立幼稚園園児のみなさんが思い出を描いた絵画や、福山元気大賞「あなたが素晴らしい」部門で表彰した、西小学校の子どもたちが製作したカレンダーなどを展示しています。

 福山学校元気大賞と言えば、教育委員会がある市役所13階のエレベーターホールにも、大きな切り絵の作品を展示しています。これは、宜山小学校の保護者 吉田恵子さんの作品です。2年前、入学式や運動会、学習発表会など、子どもたちの学校生活の様子を切り絵で表現して学校にプレゼントしてくださっていたことを、当時の校長先生からの推薦により、学校元気大賞「地域一丸部門」で表彰させてもらいました。

 子どもたちが元気に頑張っている様子が溢れる作品に感動し、「福山100NEN教育」をテーマにした作品の制作をお願いしたところ、快く引き受けてくださったんです。デザインや内容は、全て吉田さんにお任せしたのですが、たくさんの友達と一緒に学んだり遊んだりしながら伸び伸びと成長している子どもたちの笑顔がいっぱいの作品を完成させてくださいました。

 「すべては子どもたちのために」を合言葉に、「学びが面白い!」「学校が楽しい!」という声が溢れる学校づくりをめざす「福山100NEN教育」が描く姿そのものだと感謝しています。

えがお おうえんギャラリー

吉田恵子さん作品

─教育長自ら、作品を見付けたり依頼されたりすることもあるんですね。

教育長:はい。先日、新市中央中学校を訪問した際、玄関を入ると、正面の壁一面に、一枚の校長先生の笑顔の写真が展示されていて、びっくりしました。一瞬立ち止まって動けなくなるほどでした。近づいてよく見ると、たくさんの写真を組み合わせた「モザイクアート」でした。一枚一枚の写真には、学校生活での子どもたちの姿が映っていました。美術部の生徒が、「みんなの笑顔」をテーマに、クラブ活動をしている友だちの写真を撮ったり、行事ごとに撮っている写真の中から笑顔の写真を集めたりして、約3000枚の写真を組み合わせて製作したそうです。

 とても大きな作品で、教育委員会のギャラリー展示にお借りすることはできませんが、作品からは、学校全体の温かい雰囲気が伝わってくるようでした。「生徒たちが創ってくれたんです」と話してくれた校長先生のはにかんだ笑顔もとても素敵でした。

 このように、学校を訪問する中で、教室や廊下に展示されている子どもたちの作品に、心動かされることはたくさんあります。

新市中央中学校 モザイクアート

─子どもたちの作品を観て、教育長ご自身が元気をもらっているんですね。

教育長:そうですね。子どもたちの作品を観ると、本当に一人一人の個性や表現が溢れており、まさに「カラフル」そのものです。だからこそ、楽しく豊かな世界が広がり、観る人を元気で笑顔にするのだと思います。「えがお・おうえんギャラリー」に展示した作品は、福山市教育委員会のホームページでも紹介しています。是非、ご覧いただきたいと思います。

 今回お伝えした本物の芸術文化に触れる体験は、第6回で紹介した「学校図書館」と同様に、子どもたちの興味を広げ、想像を膨らませ、知的好奇心を醸成する多様な学びの場の一つです。一つの作品を観ても、同じ音楽を聴いても、子どもたちの見方・感じ方は様々です。自分の感じ方を大切にするとともに、互いに違うことの素晴らしさを実感し、認め合うことを、教室、学校以外の場でも大事にしていきたいと思います。

びんまる2019年12月号より

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