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三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第7回

三好教育長に聞く 福山100NEN教育

イエナプラン教育校の開校に向けて

 2022年、福山市は、公立小学校では全国初となる「イエナプラン教育校」を開校します。「イエナプラン教育」は、異年齢によるクラスを編制し、自律的、協働的な学びを重視する教育で、新しい時代の教育モデルとしても注目されています。今回は、「イエナプラン教育校」について三好教育長からお話を伺います。

─イエナプラン教育について教えてください。

教育長:1920年代にドイツのイエナ大学で始まった学校教育です。オランダでは、1960年代に最初のイエナプラン校が設置され、現在は公私立の約220校に導入しています。日本でも、今年4月、長野県佐久穂町に、私立イエナプラン教育校が開校しました。

 イエナプラン教育の特徴は、1年生から3年生までと、4年生から6年生までの異年齢によるグループ編制で学習することです。年齢の違う子どもたちが、対話を重ね、協力しながら課題を解決することを通して、多様な考えを大切にし、協働することの素晴らしさを学びます。

 大人の社会では、同じ職場にさまざまな年齢の人がいるのは当たり前です。その中で、さまざまな立場からの意見を出し合い、話し合ったり集約したりしながら物事を決めていきますよね。イエナプラン教育は、そうした社会に近い環境で学びます。

─具体的に、どのような学習が行われるのですか。

教育長:イエナプラン教育の学習は、各教科の基礎的な内容について、自分で選択したり教師から示されたりした課題に取り組む「ブロックアワー」と、身近なことから地球規模のことまでをテーマに、教科の学習で学んだ知識を生かして協働的に学ぶ「ワールドオリエンテーション」の大きく2つに分けられます。

 「ブロックアワー」では、子どもたちは、自分で時間割を作り、一人で取り組んだり異年齢で考え合ったりしながら学びます。教師は、一人一人のペースを大切にしながら支援をしたり、全体に問いかけて学習を深めたりします。

 「ワールドオリエンテーション」は、現在の「総合的な学習の時間」と同様に、子どもたちが自ら発見した課題を探究していきます。異年齢の集団であることで、多様な見方や考え方、感じ方、経験や知識を交流しながら学ぶことができます。

 また、お互いに顔が見えるように輪になって、自分のことやその日のテーマなどについて発表したり話し合ったりする「サークル対話」を一日の始まりと終わりに行います。

サークル対話の様子

─三好教育長は、実際に、オランダのイエナプラン教育校の視察に行かれたと聞いています。

教育長:3年前から、小学校1年生の児童が、学びの基礎となる「言葉」や「数」をどのように獲得するのかに着目し、市内の二つの学校で調査をしてきました。

 第4回でご紹介した今井むつみ先生をはじめ、多くの認知科学研究者により、小学校入学前に子どもが過ごす環境によって、言葉や数の理解に差があることが分かっています。小学校に入学して同じ授業を受けていても、最初から教科書の内容を理解できる子どももいれば、そうでない子どももいます。そうした中で、日々の授業を撮影した動画やテストによって、子どもたちがどのように理解したり、どんな間違いをしたりしているのか、学びの様子を追跡しました。

 その中で分かってきたことは、子どもは教師が教えた通りに理解しているのではなく、子ども同士で話したり活動したりしながら疑問や考えを広げ、持っている知識や経験と繋げながら自分で考え、個々のペースで言葉や数を理解し、獲得しているということでした。

 こうした「子どもが学ぶ過程」に即し、子ども自身が決めたり、友達と一緒に考えて判断したりすることを大切にした「子ども主体の学び」づくりに取り組んでいましたから、昨年4月、県の平川教育長から、県内の市町教育長へオランダへの視察の話があった時に「ぜひ、参加したい」と思い、行ってきました。

─実際に、オランダのイエナプラン教育校をご覧になられて、どのような感想をお持ちになりましたか。

教育長:視察の話を聞いた時には、実際に学校をつくることになるとまでは思っていませんでした。しかし、教室全体が、おもちゃ箱を引っくり返したみたいに、カラフルでいろいろな場所があり、教材などが置いてありました。学んでいる子どもたちの表情も、とても「カラフル」だと感じたんです。教室という学びの場を変えただけで、こんなに変わるものなのかと衝撃を受けました。

─オランダから帰られて、どのようにイエナプラン教育校の設置を決めたのですか。

教育長:昨年6月、文部科学省がこれからの新しい教育の姿として、「異年齢・異学年集団での協働学習の拡大」「子ども一人一人に応じた最適な学びの実現」などを示しました。それを踏まえ、県教育委員会は、県内公立小学校において、イエナプラン教育を導入する検討を始めることになりました。

 一方、本市においては、小中学校の再編の対象となっていた常石小学校の地域住民や地元の造船会社である常石ホールディングスから、地域に学校を残すために、いくつかの提案を受けました。その中に、新しい教育を取り入れた学校という構想があったんです。

 そこで、県教育委員会と連携しながら、再編後の常石小学校の校舎などをリニューアルして、イエナプラン教育校として新たに開校することにしました。

─常石小学校では、イエナプラン教育校の開校に向けた準備を始めているのですか。

教育長:はい。子ども主体の学びに向けた授業研究、イエナプラン教育協会の講師を招聘した校内研修等を通して、一人一人の教員が、これまで以上に、子どもたちの意欲や疑問を大切にしながら授業を行っています。また、教室にカーペットや長椅子を置き、一人で静かに学んだり友達と対話したりするなど、学ぶ過程に応じて子どもたちの動きが自然に生まれるよう工夫しています。そうした環境の中で、朝の時間を使ったサークル対話も始めており、テーマに沿った自由な対話が生まれるようになってきています。

 現在、県教育委員会と連携しながら、具体的な単元開発や年間指導計画の作成に取り掛かっており、来年度からは、1〜3年生の全教育活動、4〜6年生の一部教育活動を異年齢グループで行う予定です。それに応じて、市内を対象に、新1〜3年生の児童を受け入れます。

 詳細は、10月中旬に、福山市教育委員会のホームページなどでご覧いただけるようにします。その後、常石小学校でのオープンスクールや説明会も行う予定です。

 学校を設置する沼隈町は、奉仕活動・相互扶助の「一荷合力」の精神が古くから引き継がれている町であり、「イエナプラン教育を理解するための勉強会を開こう」「教育活動に積極的に協力したい」など温かい声をいただいています。

 引き続き、子ども一人一人の学びを大切にした「子ども主体の学び」づくりに全力で取り組むとともに、多様な学びの場の一つとして、地域や常石グループのご支援、ご協力をいただきながら、伸びやかで創造性のある「イエナプラン教育校」の創設に取り組んでまいります。

びんまる2019年10月号より

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