- 三好教育長に聞く福山100NEN教育
三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第36回
三好教育長に聞く 福山100NEN教育
テーマ 認知のしくみから学習方法を見直す
2月8・9日に、今年度最後となる福山市の初任者研修が行われました。今回は、その内容について三好教育長からお話を伺います。
—どのような初任者研修が行われたのですか。
教育長:新型コロナウイルスの感染が急拡大し、3学期に予定していた研修は中止またはオンラインで実施しています。最後の初任者研修も、各所属校からオンラインでの実施となりました。
「福山100NEN教育」6年目は「子ども主体の学び」の原点に立ち返るため、「認知のしくみから学習方法を見直す」ことを全校で取り組んでいます(「びんなび福山100NEN教育」で検索。第23回に内容掲載)。初任の先生もこの一年間、校内外の研修で「認知のしくみ」について学び、授業で実践してきたことを一枚のレポートにまとめました。最後の初任者研修ではグループに分かれ、一人ずつ実践を交流し合いました。その後、端末上で共同作業できる機能を使ってまとめの資料を作成し、発表し合いました。
—それぞれ自分の学校にいても、端末上でつながり、発表資料が作成できるのですね。どんな内容を発表されたのでしょうか。
教育長:「認知科学の常識」として挙げていた「『知っている』と『使える』は別。」を取り上げて発表していたグループが多かったですね。日々の子どもの姿から、痛感する場面が多くあったのだと思います。例えば、かけ算九九。学級全員の子が覚えて言えるようになったけれど、行事のために椅子を横に4個、縦に6列並べた後、「椅子は全部で何個並んだ?」と子どもたちに聞くと、「1、2、3、4、5、6…」と一つずつ数え始めたそうです。「4個ずつが6列あるから4×6=24 24個」とはならなかったことから、かけ算九九は知っているけれど、使っていない子どもの姿に気付いたと発表されていました。
他にも分数の授業から見えた気付きを発表した人もいました。数直線上に1/4・2/4・3/4…と数字を入れることはできる。しかし、ピザで5/4枚を考えようとしたときに、ある子が一つの円を6等分して5つ分塗り、「 枚です」
と答えた。それを聞いた別の子が、「それでは5/6枚になってしまう」と言い、円を2つかいて5/4枚を表現すると、また別の子が、「それでは5/8枚になる」と発言したそうです。この子どもたちの姿から、数直線の問題で正解が出せても、分数の意味まで理解できていなかったとわかり、授業を見直していったと発表されていました。
小学校低学年では、数という抽象的なものをわかりやすくするために、具体物を使って考えようとします。しかし、子どもたちの頭の中では具体と抽象の間で混乱し、わからなくなってしまうことが起こっています。
—具体物を使って考えるとわかりやすくなると思うのですが、反対に混乱するとはどういうことでしょうか。
教育長:1、3、0.1、1/3、√…などの数字は抽象です。数字に単位がついて、「りんごが1個」は具体で、「1+3=4」という数・式は抽象です。「りんご1個とりんご3個合わせて4個になります」は具体で、具体に置き換えるとわかりやすいです。しかし、具体に置き換えるとすべてわかるかというと、なかなかそうはなりません。
例えば、「1/3+3/4」という計算(抽象)を考えるときに、「りんご1/3個とりんご3/4個を合わせると何個になるか」と具体に置き換えると、イメージができず、子どもは混乱し始めます。具体に置こうとしすぎると、余計に難しくなることがよくあります。
子どもが最初に数に触れるのは、ものを数えるときではないでしょうか。だから多くの子が、数は「1、2、3、4…」という正の整数だと思っています。そう思い込んでいる子に「3/4」という分数を教えても、数とは思えず、分母や分子が何を意味しているのかわかりません。「1」を「1個のもの」と捉えている限り、全体を表す「1」の意味が受け入れがたくなります。全体を「1」として分割する分数や割合を多くの子が苦手とするのは、そのためです。学年が上がるにつれて、学習はどんどん抽象化していきます。わかりやすくするために、具体にして考える体験はとても大事です。しかし、「具体がいい」と思いすぎて、すべて具体で考えようとすると、抽象の世界で考えることが難しくなってきます。
中学校の学習内容になると、さらに抽象度が増してきます。抽象度が増すから具体はいらないということではなく、何を具体にし、どこで五感に触れるような体験の場面をつくるのかを考えることが大切です。理解は、具体と抽象を行ったり来たりしながらなされる。このことを常に意識すると、学習方法の見直しが行われ、子どもたちが「使える知識」を獲得していくことに大きく繋がっていくと思います。
—授業で学んだことが、子どもたちにとって「使える知識」となっているかどうか、先生方も気になるでしょうね。
教育長:そうですね。中学校の英語の先生が、「授業で何度も聞いて読んでインプットした『It′s too heavy.(とても重い)』という英語表現を、掃除時間に机を運んでいる生徒が使っていました。」というエピソードを発表していました。授業で学んだことが使える知識となっているのかという意識があるからこそ、その子どもの発言に気付けるのだと思います。
初任の先生の発表を聞いていると、「子どもたちはわかっているのか、できているのか、使えているのか。」という問いから授業が見直されていると感じるものがいくつもありました。この問いは、先生として子どもに関わるときに、常にもっていることが大事なのだと思います。ただ教えて繰り返すだけでは、使える知識になりません。使える知識とするために学習方法を様々に考えたとしても、Aさんに上手くいったことが、Bさんに上手くいくとは限りません。だから、先生には「認知のしくみから学習方法を見直す」ことを、追求し続けてほしいと思います。
—家庭の中でも、子どもが学校で学んだことを使う場面は多いのではないでしょうか。
教育長:そうですね。保護者の方々も、お子さんの言動から気付かれることがたくさんあるのではないでしょうか。是非、聴いてあげてください。
びんまる2022年3月号より
※最新の情報とは異なる場合があります。
ご了承ください。
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