• 三好教育長に聞く福山100NEN教育

三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第61回

連綿と続く福山教育

今回は、毎月紹介している「福山学校元気大賞」の第9回目となる表彰式について、三好教育長からお話を伺います。

― 9回目ということは、教育長に就任されてから毎年行われているのですね。

教育長:そうですね。2015年(平成27年)に「福山学校元気大賞」を創設してから、毎年年度末に、1年間の教育活動の過程や様々な結果を総合的に判断して、「福山学校元気大賞表彰式」を行っています。コロナ禍の2年間はオンラインでしたが、昨年度から対面で行っています。校長先生や先生方を前に、各学校でのいろんな場面を思い返しながら、うれしい気持ちで表彰状を読ませていただきました。

― 今年度の「大賞」「優秀賞」「奨励賞」「特別賞」は、どのように選考されたのですか。

教育長:今年度は、子ども・教職員・学校が元気であることに加え、主体的・対話的で深い学びに関する意識に重きを置いて決定しました。
一次審査では、子どもの「知識・技能及びそれらを活用する力」、教職員の「職場環境に関する意識」について、総合的に判断しました。二次審査では、「主体的・対話的で深い学び」「非認知能力」「教職員の授業づくり」に関する意識を見て、総合的に判断しました。特別賞は、「授業が楽しい」「教職員のやりがい・挑戦」「体力」の3つについて、肯定的な回答や得点の伸びが、特に大きかった学校を選考しました。

― 今年度の受賞校を教えてください。

教育長:受賞校とともに、代表者挨拶の一部を紹介します。

☆大賞 松永中学校区(松永小・柳津小)
 本校区は、昨年度より西部地区小中一貫教育を立ち上げ、大成館・精華中学校区と共に小中10校で、連携、協力、切磋琢磨を合言葉に取組を進めてきました。研究テーマを「自ら考え、判断し、学び続ける児童生徒」とし、協議を重ねるごとに、先生方の目の色が変わり、各学校が変わり始めたと感じています。本校では、生徒の主体性が年々上がってきていると実感しており、10校を代表して受賞できたことを一同喜んでいます。

☆優秀賞 鷹取中学校区(霞小・光小)
 鷹取中学校区では「持続可能な未来、地域を考えることができる児童、生徒」を育成するために、SDGsの視点を取り入れた授業実践に取り組んでいます。特に総合的な学習の時間において、教科の学習と関連付けながら、小学校では防災や環境整備について取り組み、中学校では、「think globally act locally」を実現するための活動を各々が考えました。今後も、教職員、保護者、地域と協働し、校区の子どもたちを育てていきます。

☆奨励賞 鳳中学校区(伊勢丘小・幕山小)
 校区一斉の地域貢献活動を通して、子どもたちは、地域の役に立つことにやりがいを感じ、力を発揮し、自分には良いところがあると実感してきました。授業においても、実生活の問題解決につながる教科の見方・考え方を身に付けることができるよう、年6回の校区一斉研修を開催してきました。私たちが今付けようとしている力は、子どもたち自身の未来を切り拓き、やがてこの地域社会に貢献する力につながるものと信じております。

☆特別賞 東朋中学校
 本校ではPTAの協力も得て、漢字・英語・数学・日本語・文章検定を実施しています。達成感と新たな目標が原動力となり、「学びが面白い」の意識向上に繋がっています。また、基礎的な知識を定着させ、学びを深める活用力の礎になるよう全校で同じ学習に取り組んでいます。教職員も目標設定ができ、ベクトルを同じ方向に向け取り組むことができました。生徒も先生も一つになって、前へ前へ進んだ一年を評価いただいたと感謝しています。

☆特別賞 常石ともに学園
 「目的をもった授業づくり」をテーマに、日々の対話を通して、切磋琢磨しながら学びの創造に取り組んできました。福山100NEN教育のテーマ「自ら・ともに『鍛える』『支える』の言葉も、「ともに考えることで自らを『鍛える』、より学びを面白いと感じられるように『支える』」と私たちの学校では考えました。目の前の子どもたちのことを考え、教材研究をして授業を見せ合い、ともに考えることで、私たち自身も鍛えていきたいです。

☆特別賞 常金丸小学校
 体力について、本校の目標を初めて超えたとき、児童に伝えた言葉を紹介します。 「最初は難しいことでも何回かやっているうちにできるようになり、自信がわいてきます。皆さんには、どれほどの可能性が秘められているかわかりません。実際に体力テストで結果を出しました。『やればできる』の精神で、何事にもチャレンジしてほしいです。自らを鍛えるために『続ける』『粘り強く行う』『工夫して行う』ことを実践してみてください。」

― それぞれの挨拶を聞くと、昨年のテーマ「自ら、ともに『鍛える』『支える』」に向かって、各学校が取り組んでこられたことが伝わってきますね。

教育長:そうですね。この間、各学校では、従来の学校の価値観や体制を問い直しながらチャレンジし続けてきました。その中で、「子どもは主体的に学ぶ」という認識を教職員が深めてきているからこそ、改めて「鍛える」ことの価値がわかり、子どもたちがさらに伸びていくために「支える」ことができているのだと思います。

― 前回のインタビューで取り上げた今年のテーマ「記号接地」が、もうすでに話題になっているようですね。

教育長:3月議会で答弁してから、議会の中でも「記号接地」という言葉が、結構飛び交っていましたね。意味がわからないという声も含めて、話題にしていただいていることがうれしいです。ある議員さんは、ご自身のフェイスブックに「記号接地と教育の真髄」という題でコメントを書いてくださっていました。有難かったですし、改めて身が引き締まる思いです。

― どんな内容だったのですか。

教育長:一部を紹介させていただきます。

市教委は、本会議中に「記号接地」というキーワードを使い、子どもたちの学習のあり方について示しました。馴染みのない言葉であり、議員の間でもなかなかその真意をつかめない状況でありましたが、私は汲み取ったつもりです。(中略)理解の進み具合に関わらず、子どもたちの点数が上がれば、市教委も成果として多くの方から高い評価を受けるでしょう。しかし、その安易な道には進まず、子どもたちの正しい学びのために数値で評価できない部分に着目し、取り組む姿勢に私は真の教育者の志を感じるのです。
福山100NEN教育、開始から8年という時を経て、これからが正念場です。

この8年間、すべての施策を「学び」一点に集中し、一年一年試行錯誤を積み重ねてきた今だからこそ、「記号接地」をテーマとして掲げました。9年目、今年が本当に踏ん張りどころです。

― 「福山100NEN教育」の今後を思い描きながら、読者へメッセージをお願いします。

教育長:とにかく子どもはすごいと思います。子どもは我々大人の感覚では、なかなか理解できないようなことを考えていたり、思っていたりします。今は、上手く表現できていなくても、誰もがそれぞれに秘めた才能を持っています。そこを大人が短い期間で良い悪いと評価し過ぎると、やる気を失ったり、可能性を狭めてしまったりします。大人の価値観や成功体験を押し付けるのではなく、その子しか持っていない素晴らしいところを大事に育てていく学校であり続けたいし、家庭・地域であってほしいと思います。
今後、福山100NEN教育、一年一年試行錯誤の軌跡が、どんなに時代が変化しても、連綿と続く福山教育の基盤を堅固なものにしていくと思います。そして、そこで育っていく子どもたちは、狭い価値観や固定観念に縛られることなく、学び続ける力で自分の人生を切り拓いていくと確信しています。
5年間続いたこの連載も、今回の61回で終了となります。長い間ご覧くださり、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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