- 三好教育長に聞く福山100NEN教育
三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第59回
災害から命を守る ~自分で考え判断し行動する力~
― 2024年は、予想もしない大地震で始まりました。石川県では、今なお断水や停電が続き、多くの人が避難所生活を送っています。
教育長:50校以上の学校が避難所になっています。小中高校合わせて86校が休校となり、新学期が迎えられていません。小中学校の再開が見通せない輪島市・珠洲市・能登町では、子どもたちの学びの環境を確保するため、集団避難の調整をし、現在約400人の中学生が、保護者の元から離れ、宿泊研修施設などで共同生活を送っています。
― 集団避難していない中学生や小学生もいますよね。
教育長:文科省が学習端末を無償で貸与し、オンライン授業など、学びを保障していく動きが始まっています。このような中でも、避難所で大人と一緒に雪かきをしている小学生や、炊き出しの人気メニュー、体調維持の体操などを記事にした壁新聞を作り、避難所にいる人たちを元気づけている小中学生が報道されていました。できることを見つけて活動する子どもたちの姿が、悲しみに沈んでいる人の心を動かしているのだと思います。一日でも早くライフラインが復旧し、教室での学びが再開できることを願うばかりです。
日本は地震大国と言われ、これまでも大きな地震が繰り返し発生しています。震度1以上の地震は、年間二千回以上も起きているそうです。常に自分事として捉え、あらゆる場面を想定しながら、備えをしておく必要があります。
― 近い将来、大きな地震が起きると予想されていますよね。
教育長:広島県内で起こるかもしれない地震のうち、最大の被害が出ると想定されている地震が、「南海トラフ巨大地震」です。震度5以上が想定されています。この地震について、30年以内に起きる確率は70~80%とされていて、発生時期を年月日まで予知することは、今の地震学では不可能です。
― いつどこで起きるかわからない災害に対して、学校ではどのような防災教育を行っているのですか。
教育長:各学校では、子どもたちが自然災害の現状や原因を知り、災害時に的確な判断と適切な行動ができるよう、各教科等において防災教育に取り組んでいます。理科や社会では、自然災害が起こる原因や仕組み、人々を守る対策や活動等について学習します。特別活動や総合の時間には、地域のハザードマップや県が作成した「ひろしまマイ・タイムライン」を活用し、具体的な災害を想定しながら、避難に備えた行動を考えています。災害の避難訓練は、地震・津波・洪水・土砂災害など、地域の災害リスクや過去の災害状況を踏まえて、実施しています。予告なしで休憩中に実施するなど、子どもが自ら判断して避難する訓練もしています。最近では、地域と合同で実施している学校もあります。
― どれだけ実際の場面を想定して訓練できているかが重要になってきますね。
教育長:おっしゃるとおりです。ただ、訓練をすればいいということではありません。この度の能登半島地震で、約40世帯90人ほどが暮らす珠洲市三崎町は、地震と津波で破滅的な被害を受けていました。しかし、亡くなられた方はいません。住民の大半が高齢者であったにもかかわらず、5分以内に高台に全員避難して無事だったそうです。その地区では、東日本大震災をきっかけに、毎年地震を想定し、時間を計測しながら、近所同士で声をかけ合い、歩けない人を背負うなど協力して避難訓練をしていたようです。住民の一人が「普段訓練をしていなかったら、みんな死んでいたかもしれない。奇跡じゃなくて、訓練が生きた」と語っておられました。このような事例からも、実際を想定した訓練の大切さを伝えていきたいと考えています。
― 同じ1月1日に起きた飛行機の衝突事故での全員脱出も「奇跡ではなく訓練の積み重ねの成果」と報道されていました。
教育長:そうでしたね。客室乗務員による迅速な避難誘導によって、約400人の乗客乗員が衝突からわずか18分で全員脱出していました。衝突の直後、機長から指示が出されるインターフォンが使えなくなっていたため、客室乗務員自らの判断で、3ヶ所から脱出することを決めたと記事に書いてありました。
指示通り確実に動くことも大事ですが、緊急の場合、自分で状況を判断して行動する力が求められます。しかし、この力はすぐに身に付くものではありません。客室乗務員の研修では、火災・接触事故等あらゆるシュチュエーションの救難訓練が、凄まじい緊張感の中で行われるそうです。そうした訓練があるからこそ、経験を活かし、最善な方法を判断して行動できるのだと思います。
この自分で考え判断し行動する力は、防災教育に限らず、この間の福山100NEN教育として、ずっと追求している力です。
― 福山100NEN教育も9年目となりますね。2024年は、どんな1年になりそうですか。
教育長:毎年思っていますが、子どもたちが元気で、それぞれがしっかりと伸びていく1年にしたいですね。子ども一人一人の中にある、その子しか持ってないものを大事にするということが福山100NEN教育のベースにあります。国が示している「主体的・対話的で深い学び」とは、自立した個が集団との関係の中で、主体的・対話的に学んでいき、深く広くなっていくということ。この9年間、いろいろチャレンジしてきて、手に入れたものがある中で、また原点に戻る。何のために、目的は何なのかというところに返って、着実に確実にやっていく一年にしたいと考えています。
― 今年のテーマは?
教育長:「記号接地」です。これがまさに求める学力であり、求めてきた学びです。このことをテーマに、2月1日、慶應義塾大学の今井教授をお招きして、第2回目の校長・主任研修を行います。詳しくは、来月号で紹介させていただきます。
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