- 三好教育長に聞く福山100NEN教育
三好教育長に聞く 福山100NEN教育 第47回
子どもたちの中にある思いと力を信じて
—毎月、月初めに市内の校長先生方が研修会を行い、そこで三好教育長が話をされていると伺っています。年明けの研修会では、「福山100NEN教育」8年目に向けて、どのような話をされたのですか。
教育長:日本経済新聞の記事の中に、これまで大事にしてきたことや取組を進めていく上でヒントになることがありましたので、記事を紹介しながら話をしました。
勝負の世界 異次元の活躍 激動2022 「全能」に挑む姿 胸を打つ
記事はこの見出しから始まり、米大リーグで初めて規定打席と規定投球回にダブル到達し、2桁勝利・2桁本塁打を達成した野球の大谷選手、日本女子の五輪最多メダリストになったスピードスケートの高木美帆選手、「新時代の手」「常識外れの一手」と言われ、史上最年少で五冠を成し遂げた将棋棋士の藤井聡太さんの活躍が大きく取り上げられていました。
この記事から、元陸上選手の為末大さんが次のようなコメントをされています。
「自然体で世界と戦える世代」
現代の若者は子どものころからインターネットが身近で、自分たちが世界でどの位置にいるかを相対的に意識できた初めての世代だ。過去からの莫大なデータにも容易にアクセスできるなかで育ってきている。こうした時代や環境が、常識や既成概念を超えて圧倒的な結果を残す若者が続々と登場する背景にあるのではないか。
我々は通常、ものごとを基本から段階的に学ぶが、ネットではハイレベルな内容にすぐに接することができる。意欲があってセンスや才能に恵まれていれば、それを吸収し「飛び級」するように、どんどん高みに上がっていける。 だが、順序立てて学べるわけではないので、いろんな理論が混ざってしまって動きがチグハグになってしまうスポーツ選手もいる。多くの人の才能を伸ばすためには、もう少し情報を整理して届ける必要があるだろう。(中略)
この国の未来に向けて悲観的な見方が強いが、自然体で何に対しても物おじしないで自己表現できる。そんな若い世代が日本を変えていくと期待している。
【日本経済新聞2022年(令和4年)12月30日(金曜日)抜粋】
今の小中学生は、生まれたときからスマホが身近にあるなど、たくさんの情報に触れてきています。学校で習う前から知っている教科書の内容は、たくさんあります。子どもたちが知っていることや興味があることと、教科の学習内容がつながっていけば、子どもたちは「知ってる!やったことがある!」と、考え始めます。子どもたちの中にある力や「もっと~したい」という思いを信じて、日々の教育活動を進めてほしいという話をしました。そのときに、子どもたちから出てきた知識や疑問などの何を取り出して、どう整理していくのか。為末さんが言われている「多くの人の才能を伸ばすためには、もう少し情報を整理して届ける」ことが必要になってくるのだと思います。
先日ある小学校で、まさにこのことを試行錯誤しながら取り組んでいることが伝わる授業を見ました。
—どんな授業だったのでしょうか。教えてください。
教育長:3年生の算数の授業でした。はじめに先生が、問題文の「1L」の「1」を書いていなかったので、「5 分の10」「7分の10」と子どもが問題文に入る数を予想していました。中には、「3分の10以上だ。だってないものは使えんじゃん!」「11分の10だったら、水がはみ出てる」と、問題を具体的にイメージしている子もいました。分母が異なると計算しづらいと感覚的にわかるのか、「□分の10」という予想しか出ていませんでしたね。「引きやすい問題が助かるよな~」とつぶやいている子もいました(笑)。最終的に先生が「1L」と黒板に書こうとしたとき、子どもから「1Lじゃない?」と声が出てきて、「文章題的に面白い!」と言っている子もいました。
問題・数字を見ただけで、クイズでも解くかのように多くの子が面白がって考え始めていました。問題を考える過程で、子どもたちが知っていることやわかっていることを出し合っていくと、分数・整数・小数・L・dl…といろんな数につながっていきました。「分数のひき算」の学習を超えて、数の世界にいつの間にか入り、遊ぶように学んでいる子どもたちの姿を見て、とてもうれしくなりました。また、一人でじっくり考えている子、考えたことをみんなに伝えている子、自分の考えをノートに書いて整理している子、黒板に書いている子など、学び方も様々で、一人残らず一人一人がはっきりと意思をもっていると感じました。
一人一人のペース・学ぶ過程を大切にすること、子どもたちのもっている知識や経験を使いながら概念を広く捉えて学んでいくことなど、この間、大切にしてきたことが表れている授業でした。
授業後に先生と話をすると、後半はもう少し子どもたちが考えたことを整理することが必要だったと言われていました。どんどん出てくる子どもの疑問や意見の何を取り上げ、どう整理していくことが、一人一人の「わかる」に向かっていくのかということをしっかり考えられていました。
子どもたちのもっている知識や興味・関心は様々です。ですから、整理するファシリテーターとしての役割が大切です。
—「何をするのか、しないのか」授業で先生方が臨機応変に考えられていることは、子育てにおいても同じですね。
教育長:そうですね。幼児期の子も、知っていることやできることがたくさんあります。ご家庭においても、子どもの状況を見て、手を出すのか出さないのか。いつ出すのか、どう出すのか。悩みながら子育てをされている方は多いと思います。
先ほど紹介した新聞記事で、藤井聡太さんのことは次のように書いてありました。
プロ棋士の多くはAIを使って主に序盤を研究する。序盤の表面的な指し手だけならAIが示す手順や評価値を暗記するだけでまねできるが、藤井は『その後は自分が刺しこなさないといけない。評価値そのものより、局面をどう見るかが大事』と堂々語る。
何事においても、この通りやれば絶対よいというマニュアルはありません。子育てによいと言われていることをそのまま実行しても、我が子にとってよいこととは限りません。日常で起こっていることに正解はないので、自分が知っていることと目の前の状況を見ながら考えて、判断していくことが必要です。
先日、1歳過ぎた子がレモンを食べているのを見ました。小さな子がレモンをつかんで食べようとしたら、思わず取り上げてしまいませんか。まだ味の付いていないものだけを食べているから、酸っぱさも食べ物の一つと感じているのか、その子はレモンをおいしそうに食べていました。小さな子が酸っぱくて食べられないというのは、大人の感覚なのだと思いました。
子育てにおいてどうすることがよいのか。子どもがたくさんのことを教えてくれていると思います。
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