恋しき

シリーズ「町の記憶」 府中市府中町 恋しき

文人墨客が愛した宿で「コロナ後」のにぎわいを

府中市のシンボル的存在として知られる「恋しき」は、1872年創業の元料亭旅館。約2,500㎡の広い敷地に母屋と五つの離れ、約1,000㎡もの日本庭園を有する貴重な文化遺産だ。犬養毅や井伏鱒二など多くの著名人に愛され、吉川英治は離れの一つ・桔梗の間に滞在して「新・平家物語」を執筆している。2004年には母屋と四つの離れが国の有形文化財に登録された。

母屋は一部三階建て。明治から昭和にかけて増築され、時代が幾重にも同居する。回遊式庭園は京都から高僧を招いて築かれた。かつては地元の人もほとんど中を見られないほど格式が高く、「福塩線沿線随一」とうたわれた旅館だったという。1990年の廃業後、2005年に地元有志が運営会社㈱恋しきを設立し07年に料理店を開いたものの、19年に閉店。今年10月に府中市が取得した。

歴史的地区にある観光の核施設として、市は年内をめどに活用検討委員会を立ち上げ、長いスパンでの活用方法を模索していくという。「歴史があり、文化財としても価値の高い建物。観光資源としてコロナ後のにぎわい創出に役立てたい」。今後が楽しみだ。

中国ビジネス情報2020.11.20号「町の記憶」より